
日米を30日で往復、四国沖で通信試験
米航空宇宙企業Sceye(サイ)が開発する無人の成層圏プラットフォームが、2026年8月9日に米ニューメキシコ州を出発し、日本上空で通信試験を行った後、9月5日に同州へ戻りました。約3万キロを飛行したこのミッションでは、スマートフォンとの通話や動画通信、ドローンとの接続、機上でのデータ処理を試しました。
高高度プラットフォーム局(HAPS)は、成層圏を飛ぶ機体に携帯電話基地局などを搭載する通信設備です。今回の機体は日本の高知県・室戸岬沖で運用され、ソフトバンクの通信網を通じて地上の端末と接続しました。
米国から日本へ飛来したHAPSを使い、日本上空でスマートフォンと通信する試験サービスを実施したのは、今回が初めてです。機体は8月23日に日本の空域へ入り、試験後に米国へ向けて出発しました。
スマートフォンやドローンとの接続を確認
機体には4G LTE相当の基地局が搭載され、地上のスマートフォンとの間で音声通話、緊急通話、メッセージ送信、動画視聴やビデオ通話などを試しました。地震・津波の緊急速報メールと、海上保安庁と連携した118番への通話も確認対象になりました。
試験では、HAPSの通信を使ってドローンを遠隔操作し、飛行制御や位置情報の送信、映像伝送を行いました。ソフトバンクは、こうした接続を地上だけでなく上空の移動体にも通信を届ける「三次元の通信ネットワーク」構想の一環と位置付けています。
機体上のサーバーでデータを処理するエッジコンピューティングも実施しました。スマートフォンの通信を機上で処理して応答する構成で、平均応答時間は68ミリ秒となり、インターネット経由のクラウド処理に比べて通信遅延を40%超減らしたとソフトバンクは報告しています。
地上網や衛星と役割を分ける構想
HAPSは地上基地局より広い範囲に通信を届け、必要な場所へ展開しやすい一方、地上網では地形による遮蔽や遠隔地への設備拡張が課題です。今回の試験では、室戸沖の対象地域で機体の位置を半径5キロ以内に保ちながら運用し、地上の端末と接続しました。
HAPSは低軌道衛星より地上に近く、遅延や端末の面で利点があります。広域を覆う衛星とは異なる役割を担い、HAPSが利用者への通信を担い、衛星がHAPSへの中継回線を提供するなど、複数の層を組み合わせる方式もあります。
地上網、HAPS、衛星のいずれか一つだけでは、遅延、通信範囲、容量、費用、耐障害性のすべてを満たせず、組み合わせて要件を補う考え方があります。今回の試験では、地上基地局の通信を停止した区域をHAPSが補完する形も試しました。
長期運用と商用化へ向けた準備
成層圏通信プラットフォームの実用化は1990年代後半から試みられてきました。Sceyeは2016年に小型試作機の試験を始め、2021年には全長約65メートルの機体で成層圏へ到達しました。今回の機体は約83メートルです。
Sceyeの機体はヘリウムで浮力を得て、電動プロペラで位置を保ち、太陽電池と蓄電池で夜間を含む運用に必要な電力をまかないます。SceyeのCEOは、2004年に発見されたグラフェンなど材料科学の進展が、機体外皮の強度と重量、電池のエネルギー密度、太陽電池の性能向上に役立ったと述べています。
HAPSには、機上で基地局処理を担う方式と、地上設備からの信号を中継する方式があります。機上処理を担う構成は機体により多くの電力と重量を求める一方、中継方式は必要な重量・電力を抑えられます。太陽光を利用するHAPSは成層圏で数カ月運用できる可能性があります。
ソフトバンクとSceyeは、今回の飛行・通信試験で得たデータを使って運用体制や通信品質の改善を進め、日本で2027年以降の商用化を目指しています。ソフトバンクは今後、災害時の通信復旧に加え、捜索・救助向けのカメラやセンサーの搭載も検討しています。









