中年のAPOE4保有者に低用量のラパマイシンを4週間投与した小規模試験で、脳血流の改善が確認されました。女性の保有者で改善が最も大きかった一方、アルツハイマー病の発症予防や記憶機能の維持につながるかは、まだ分かっていません。
症状が現れる前の脳血流に着目
APOE4は、アルツハイマー病の発症リスク上昇と関連する遺伝子変異です。保有者では、記憶の問題が表面化する何年も前から、脳の一部で血流が低下することがあります。
脳血流の低下は、症状が始まる前の変化として研究されています。今回の試験では、症状がない段階で脳血流に働きかける方法を調べました。
研究を率いたのは、ミズーリ大学医学部のAi-Ling Lin教授です。Lin教授は、APOE4を持つマウスでラパマイシンが脳の老化を遅らせ、血流を増やした先行研究を踏まえ、人でも同様の変化が起きるかを検討しました。
45〜65歳の参加者に4週間投与
対象は45〜65歳の健康な成人で、APOE4保有者と非保有者の両方が参加しました。全員が低用量のラパマイシンを毎日4週間服用しました。
投与後、脳血流の改善が見られたのはAPOE4保有者でした。変異を持たない参加者では、同じ改善は確認されませんでした。
性別ごとの分析では、APOE4を持つ女性で血流の改善が最も大きくなりました。女性はアルツハイマー病患者の約3分の2を占めるとされ、この結果は、遺伝的特徴などに応じて治療対象を見極める精密医療の研究課題にも関係します。
mTORの抑制と脳への影響
ラパマイシンは、細胞内で栄養状態などを受け取り、成長や代謝を調整するmTOR経路に作用する薬です。mTORは細胞内のタンパク質合成やエネルギー調整に関わる酵素で、ラパマイシンは主にmTORC1という複合体を阻害します。
2018年のレビューでは、動物モデルにおけるmTOR阻害が、細胞の成長を抑え、オートファジーと呼ばれる細胞内成分の分解・再利用を促すことが論じられています。脳では、ミトコンドリア機能の維持やアミロイドβの蓄積抑制など、神経保護に関わる変化も動物研究で報告されています。
ただし、これらの仕組みや脳への影響は、今回の人を対象にした試験では検証されていません。今回測定されたのは脳血流の変化であり、血流改善が長期的な脳の健康や発症リスクにどう結びつくかは、今後の研究課題です。
発症予防と安全性は別の検証が必要
今回の試験は、4週間の投与後に脳血流を調べたものです。アルツハイマー病の発症を防ぐか、記憶を長期にわたって保つかを確かめた試験ではありません。
別のPEARL試験では、健康な成人がラパマイシンを週5ミリグラムまたは週10ミリグラム、48週間服用しました。安全性指標の血液検査値と、中等度から重度の有害事象について、投与群とプラセボ群の間に有意な差は検出されませんでした。
この別試験の投与間隔や期間は、今回の毎日4週間という試験条件とは異なります。ラパマイシンの長期使用に関する臨床データは限られており、脳血流の改善とアルツハイマー病の予防効果、長期的な安全性は、それぞれ検証が必要です。










