
サウサンプトン大学の研究チームは、16世紀以降の港湾記録約10万ページをAIで読み取り、英国の商船航海や積み荷を調べられる地図を作りました。記録された貿易では欧州が主要な相手地域で、品目では石炭が最も多く確認されています。
港湾記録から航海と積み荷を地図化
地図の基礎になったのは、1565年以降の航海や港、船、船長、貨物を記した港湾記録です。研究チームは記録から数十万件の航海を収録し、国内外の3,000を超える港を特定しました。
港湾記録(port books)は、イングランドとウェールズの港で輸出入品にかかる関税を記録するため、地元の税関職員が作成した帳簿です。船名や船長、商人、貨物、関税の支払日などが記され、貿易の動向を調べる手掛かりになります。
帳簿の記載は港や時期によって異なり、海外貿易では輸出入が記録される一方、沿岸貿易では荷揚げ港で輸出が記録されました。関税の支払日は記録されますが、船の到着日や荷下ろし日とは限りません。今回の地図では、こうした記録に含まれる航路、港、船、品目を時期や関心に応じてたどれます。
AIは筆跡と時代ごとの綴りを学習
研究チームは、革表紙の羊皮紙帳簿をスキャンし、専門ソフトで文字を認識して情報を整理しました。手書き文字認識(HTR)は、手書き文書の文字を機械で読み取る技術です。
この作業では、港の役人ごとに異なる筆跡だけでなく、数十年の間に変わる単語の綴りもAIに学習させました。研究を率いたクレイグ・ランバート教授は、抽出後に人手で確認する必要はあったものの、AIによる整理で作業が大幅に速まったと述べています。
歴史資料向けのHTRエンジンを比較した研究では、PyLaia、HTR+、IDA、TrOCR-f、Titanの5種類が評価されました。結果は言語や文字体系によって異なり、ラテン文字の資料ではTitanとTrOCR-fが学習前の状態で高い性能を示しました。この比較研究では、各エンジンを学習・調整すると認識性能を改善できることも示されています。
欧州との貿易と植民地交易
今回の集計では、1696〜97年のイングランドの海外貿易額の約80%を欧州市場が占めました。英国帝国の拡大と並行して、欧州との商業関係が重要だったことを示す結果です。
歴史研究では、1675〜1775年のイングランドとスコットランドの対外貿易の成長について、米州・アジアの消費財や北欧の原材料への国内需要が要因の一つとされています。米州・アジアの品物を北欧・西欧へ再輸出する市場や、植民地とアフリカにおける英国製品の保護市場も、同時期の貿易を支えた要素として挙げられています。その貿易の拡大には、卸売業者や輸出商人が支えた信用取引の発達も関わったと論じられています。
別の研究書では、1600〜1775年の英国の海外貿易で、米州との結びつきが目立つ特徴だったと位置づけています。英国商人は、タバコ、砂糖、綿花、絹などの一次産品と製造品を交換しました。
石炭から動物の毛皮まで
記録された品目では石炭が最も多く、貨物の記録に10万1,000件以上登場しました。次いで麦芽、小麦、鉄、羊毛、ワインが続きます。
1696〜97年の記録には、クマ、ヒョウ、オオカミ、アライグマ、カワウソなどの動物の毛皮が輸入品として50万点以上記されています。このほか、中国からの子ども向け玩具、羊の腸、弓弦、時計ケースも確認されました。
当時「ほぼあらゆる病気を治す」と信じられていた薬「ベネチア・トリークル」も、記録に残る品目の一つです。港の分布では南西部に426か所の海事関連地点があり、南東部の306か所、スコットランドの98か所が続きました。ロンドンとテムズ川周辺だけでも、港や埠頭、荷揚げ場が135か所特定されています。









