
メラノーマと大腸がんで分かれた試験結果
8月、製薬会社2社は、個別化mRNAワクチンと免疫療法薬を併用した治療で、メラノーマの再発リスクが大きく低下したと発表しました。一方、ドイツの製薬会社は、大腸がんワクチンの初期データで効果が得られなかったとして試験を終了しました。 がんワクチンが広く使える可能性を考えるうえで、二つの結果は、がんの種類によって免疫反応が異なる点を示しています。
個別化ワクチンは、患者ごとの腫瘍の特徴に合わせて作られます。メラノーマでの再発リスク低下は有望な結果ですが、大腸がんでの試験終了も踏まえると、単一のワクチン方式がすべてのがんに同じように効くとはいえません。
この違いを考える手掛かりは、腫瘍が持つ変異と、免疫細胞が腫瘍を認識できる環境です。レビュー研究は、メラノーマでは個別化ワクチンの臨床的な効果が示される一方、免疫環境の異なるがんでは別の障壁があると整理しています。
腫瘍固有の変異を免疫の標的にする
個別化ワクチンが狙う「ネオアンチゲン」は、腫瘍に生じた変異によってできる、正常な細胞にはない目印です。患者の腫瘍と正常組織の遺伝情報を調べ、変異が実際に発現しているかなどを確かめたうえで、免疫に認識される候補を選びます。
mRNAワクチンは、選んだ腫瘍の目印を作るための情報を細胞へ届けます。抗原提示細胞と呼ばれる免疫細胞がmRNAを取り込み、目印となるタンパク質を作ると、それを細胞表面に提示します。 T細胞は提示された目印を認識し、腫瘍を攻撃する反応を起こします。
mRNA方式では、免疫細胞が作った抗原がMHCクラスIを介して提示され、腫瘍細胞を攻撃するCD8陽性T細胞の反応を促す傾向があります。 ただし、ワクチンの方式だけで反応が決まるわけではなく、腫瘍の免疫環境も関わります。 候補となる変異を計算で予測できても、実際のT細胞反応や患者の臨床結果につながるかは、別途確かめる必要があります。
メラノーマでは免疫が認識しやすい変異が多い
メラノーマは腫瘍の変異量が多く、免疫に異物として認識される目印が生じやすいとされています。 そのため、個別化ワクチンで患者固有の変異を狙う研究が進み、免疫チェックポイント阻害薬との併用も検討されています。 免疫チェックポイント阻害薬は、免疫反応を抑える仕組みを妨げ、T細胞の働きを引き出す薬です。
8月に発表されたメラノーマの結果も、mRNAワクチンと免疫療法薬の併用で再発リスクが下がったというものでした。 ただし、これはメラノーマでの結果であり、他のがんにも同じ効果が及ぶことを示すものではありません。個別化ワクチンの第3相試験は2029年まで延長されており、実用化に向けて製造や臨床試験を続ける必要があります。
患者ごとのワクチンを作るには、腫瘍の解析から製造までの工程が必要です。レビュー研究は、製造に8〜16週間かかることを、患者の状態や治療の進行に関わる課題として挙げています。 変異候補の予測精度だけでなく、製造の時間や費用、個別製品をどう審査するかも、広く使う際の課題です。
大腸がんでは腫瘍の免疫環境が壁になる
大腸がんの多くを占めるMSS/pMMR型は、変異が少なく、腫瘍に入り込むT細胞も少ない傾向があります。 免疫細胞の働きを引き出す免疫チェックポイント阻害薬は、こうした腫瘍では効果が限られると報告されています。 これに対し、変異が多く免疫細胞が集まりやすい一部の大腸がんでは、免疫療法への反応が異なります。
この差は、免疫が腫瘍を見つけて攻撃するための条件に関わります。腫瘍の変異が少なければ、免疫が目印として捉えられるネオアンチゲンも少なくなりえます。 さらに、免疫細胞の侵入を妨げたり、腫瘍の目印の提示を弱めたりする仕組みも、大腸がんの免疫療法への抵抗性に関わります。
大腸がんワクチンの試験終了は、初期データで治療が機能していなかったという発表に基づきます。 腫瘍の免疫環境や変異の違いは、メラノーマと大腸がんの結果を読み分ける手掛かりになりますが、それだけで試験終了の理由を特定することはできません。個別化ワクチンの可能性は、がんの種類や患者ごとの腫瘍の特徴を踏まえた臨床試験で評価されていきます。









