シンガポールとマレーシアで異なる刑罰政策
マレーシアは2023年、薬物犯罪などに適用していた義務的な死刑を廃止し、裁判官が刑を選べる制度へ移行しました。一方、シンガポールは厳罰が薬物乱用を抑止すると主張しており、近年は薬物密売に関する死刑執行が増えています。
マレーシアでは制度改正後、かつて死刑判決を受けた薬物犯罪者のうち700人以上が再量刑の対象となり、薬物政策のさらなる見直しも検討されています。 こうした政策の違いが犯罪をどの程度抑止するかを考えるには、刑罰への支持や抑止への期待と、実際の犯罪行動に関する結果を分けて見る必要があります。
シンガポールの調査には、住民が厳罰を支持するか、死刑に抑止効果があると考えるかを尋ねたものがあります。これらの数値は政策への意識を表す指標であり、シンガポールとマレーシアの薬物犯罪の発生状況を直接比較した結果とは異なります。
シンガポールの調査が示す住民の意識
シンガポールの国立精神衛生研究所(IMH)が2021年から2022年に実施した調査では、15〜65歳の住民6,509人を対象に、直近12カ月に違法薬物を使用した人の割合を約0.7%と推定しました。回答者が薬物を避ける理由として挙げたのは、薬物の害への認識と厳しい法律でした。
国家薬物乱用防止評議会(NCADA)の2025年調査では、若者と成人の90%超が薬物のない社会を望み、厳しい法律を維持すべきだと答えた割合は成人で96.3%、若者で92.7%でした。 これは厳罰政策に対する支持の広さを示しています。
内務省がまとめた2023年の住民調査では、薬物の相当量密売を死刑で抑止できると答えた割合は87.9%でした。2021年の83.2%から上昇しており、死刑が終身刑より有効だと答えた割合も79.7%でした。 いずれも回答者の認識を尋ねた結果です。
抑止効果をめぐる研究上の論点
モナシュ大学のMai Satoは、シンガポール内務省が実施または委託した死刑関連研究を検討し、薬物密売に死刑を用いる根拠は、研究を引用する当局者らの主張より弱いと評価しています。 検討対象には、政策への支持を尋ねた調査と、死刑の抑止効果を扱う研究が含まれます。
Satoが取り上げた調査では、「相当量」や「相当な量」の薬物を密売した場合の義務的死刑について賛否を尋ねています。しかし、回答者がその量をどのように理解していたかは調査結果から分からず、賛成と強い賛成を合わせた割合だけでは、支持の強さも区別できません。
別の調査では、「相当量」の薬物を故意に密売した場合に死刑を義務化すべきだという意見に、賛成または強く賛成した人は約62%でした。強く賛成した人だけでは19%で、質問に使われた「相当量」の意味も特定されていません。 Satoは、こうした調査結果が示す政策支持と、死刑による犯罪抑止の証拠を同じものとして扱うことに異議を唱えています。
マレーシアで裁判官に認められた選択
マレーシアの義務的死刑は、対象となる犯罪で有罪となった場合に、裁判官が別の刑を選べない制度でした。2023年7月の法改正後は、死刑が適用されていた犯罪についても裁判官に量刑の裁量が認められ、死刑のほか、30年から40年の拘禁刑とむち打ちを科す選択肢が設けられました。
再量刑の仕組みでは、通常の司法手続きを終えた死刑または終身刑の受刑者1,020人が対象となり、全員が申請したと報告されました。 死刑判決の減少は制度変更による刑の選択状況を示すもので、薬物犯罪の発生や抑止効果を測った数値ではありません。
アムネスティ・インターナショナルが2023年7月から2024年1月までに記録した139人の事件では、42人の罪名が軽いものに変更されるか無罪となりました。有罪となった97人のうち、死刑が科された、または維持されたのは26人で、残る71人には死刑以外の刑が科されました。 死刑が科された26人のうち8人は薬物密売の事件でした。 これらは量刑の変化を示す記録であり、両国の厳罰政策が薬物犯罪をどちらでより抑止したかを比べる統計ではありません。








