Brain size comparison between bird, rodent, and human with relative scale width lines
写真: Profprestos / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons

飲酒後1時間以内にミクログリアが変化

マウスを使った研究では、アルコールを摂取すると、脳の免疫細胞であるミクログリアが神経細胞を支える細胞外マトリックス(ECM)を取り込み、分解する様子が観察されました。ECMは脳細胞を支え、神経細胞同士の安定した情報伝達を助ける構造です。

研究では、エタノールを1回、または数日続けて与えたマウスの脳を画像で観察しました。投与から約1時間以内に、ミクログリアの枝の数と長さが減り、周囲を監視する範囲が狭まりました。こうした変化は、飲酒を繰り返すと強まりました。

ミクログリアは通常、脳内の異常を監視し、死んだ細胞や損傷した組織を取り除く免疫細胞です。今回の観察では、アルコールに反応してECMの成分を細胞内に取り込み、分解する様子も確認されました。

ECMの分解と神経細胞への影響

ECMが損なわれると、神経細胞間の接続が失われ、神経活動が低下する可能性があります。研究チームは、こうした変化が神経機能の乱れや、アルコールによる鎮静作用の一部につながると説明しています。

研究では、ミクログリアの免疫反応を活性化するタンパク質「MyD88」を働かなくした遺伝子改変マウスも調べました。これらのマウスでは、アルコール投与後のミクログリアの形や活動の変化、神経細胞の損傷、鎮静作用がいずれも弱まりました。

さらに、MyD88を抑えたマウスのECMを酵素で分解すると、神経細胞の接続の減少、運動障害、鎮静作用が再び現れました。この結果は、ECMの損傷がアルコールによる脳への影響の一部に関わることを示しています。

受容体への作用と免疫細胞の経路

アルコールは神経細胞の受容体に直接作用します。一方、今回調べた経路では、アルコールに反応してミクログリアが変化し、ECMを損なうことで神経細胞の働きに影響します。

二つの経路では、影響が生じる場所と過程が異なります。受容体への直接作用は神経細胞そのものに及びます。ミクログリアを介する経路では、神経細胞を支える構造の分解と接続の減少が観察されました。

アルコール使用障害の研究では、脳の自然免疫の活性化が神経毒性や神経機能の乱れに関与することが、前臨床・臨床の研究で報告されています。また、急性の鎮静作用と、慢性的な飲酒に伴う認知機能の問題や神経変性は、異なる時間軸で現れる影響です。

人の脳組織でもECMの変化

アルコール使用障害のある故人6人から得た脳組織を調べた別の分析では、対照群と比べてECMが損なわれた兆候が見つかりました。マウス実験で観察されたミクログリアによる損傷に似た変化が、人の脳でも起きている可能性があります。

主要な実験結果はマウスで示されました。人の組織分析は6人を対象としており、マウスで確認された経路が人の脳でも同じように働くことを直接示す実験ではありません。

研究チームは、ミクログリアを標的にする方法や、脳のECMを保護する方法を今後検討するとしています。MyD88は、アルコールに関連する脳の損傷を抑える治療標的の候補として挙げられています。

人で使われる飲酒量の定義

研究で使われた「大量飲酒」や「高強度飲酒」は、マウスの飲酒モデルを説明する用語です。人の場合、米国の標準的な定義では、短時間に一定量を飲み、血中アルコール濃度が基準に達する飲み方を「一気飲み(binge drinking)」と呼びます。

米国国立アルコール乱用・依存症研究所(NIAAA)の定義では、成人女性は約2時間に4杯以上、成人男性は5杯以上が目安です。この量は、血中アルコール濃度が0.08%以上になる飲み方に相当します。

「高強度飲酒」は、一気飲みの性別ごとの基準の2倍以上を1回に飲むことを指し、女性は8杯以上、男性は10杯以上です。米国の標準ドリンク1杯は純エタノール14グラムに相当します。