
ロシアによるウクライナの子どもの移送は、占領地の家族への圧力と、子どもたちの教育・軍事訓練を通じた働きかけが並行する問題です。ウクライナ当局が確認した移送・強制移動の事例は2万651件に上り、2026年9月時点で帰還した子どもは2,644人でした。
移送が家族と地域に及ぼす圧力
ウクライナ当局が確認した2万651件に対し、ロシア側の発言を含む推計には最大74万4,000人という数字もあります。国際刑事裁判所(ICC)は2023年3月、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と子どもの権利担当大統領全権のマリア・リボワ=ベロワ氏について、子どもの移送をめぐる役割に関連して逮捕状を発付しました。
子どもたちは「リハビリ」や「健康休暇」の名目で占領地から移され、シベリアや北極圏、極東など遠方に置かれる場合があります。個人情報が隠され、ロシアの家庭に預けられた子どももいると、研究者のウラジスラフ・ハブリロフ氏は説明しています。
ハブリロフ氏らの調査は、子どもの移送を戦闘に伴う副次的な出来事ではなく、占領を支える仕組みの一つと捉えています。子どもと離れた親にとって、再会の可能性を保つにはロシア当局の条件に従う圧力が生じると同氏は指摘します。
占領地の学校と青少年組織
占領下のウクライナには約160万人の子どもがおり、そのうち少なくとも58万2,000人が就学年齢です。学校ではロシアの基準に沿った教育が行われ、2022年からは「大切なことについての会話」と題した週1回の授業が占領地域でも必修になりました。
ザポリージャ州の授業では、ロシア側が第二次世界大戦での地域の「解放」や、2014年以降のウクライナにおける「ナチズムの復活」と位置づける内容を扱います。授業ではロシアの侵攻を新たな「解放」とする枠組みが示され、占領地を離れた子どもたちは、教師がロシアの軍事行動を称賛したり、兵士を招いて「祖国」を守る準備を促したりしたと話しています。
小学生向けの「ロシアの鷲っ子」は、ロシアの青少年組織「第一運動」の下部組織です。ザポリージャ州だけで97校、1万人超が参加しているとされ、武器の組み立てやドローンの操作を含む軍事訓練につながっています。
移送先に広がる再教育と軍事訓練
ウクライナの子どもが連れて行かれた施設について、イェール大学公衆衛生大学院の人道研究ラボは、ロシア国内とロシアが一時占領する地域で少なくとも210カ所を特定しました。 この施設の62.9%で再教育が行われ、少なくとも18%で軍事訓練が確認されています。
施設の半数超はロシア政府が管理しており、数万人の子どもを長期間受け入れられる規模だと同ラボは分析しています。 施設数は収容中の子どもの人数を示すものではありませんが、移送後の再教育や軍事化を担う場所が広範に分布していることを示しています。
占領地に残る子どもにも、教育と青少年組織を通じた軍事化が及んでいます。ロシアの支援で2015年に設立された「青年軍」は、愛国教育に加えて基本的な軍事技能や体力訓練を行い、同組織の会員は200万人を超えます。 ウクライナ当局によると、2022年2月から2025年7月までに占領地の住民4万6,000人超がロシア軍へ動員され、全面侵攻初年のドネツク州では学生3,500人超が動員され、70人が死亡しました。
帰還後の生活再建
帰還後の支援について、ウクライナのデニス・ウリューティン社会政策相は、帰還した子どもに一時金5万フリヴニャを給付すると説明しました。未成年時に移送され、18歳から23歳で帰還する若者も対象です。
ウクライナ政府は、子どもごとに18カ月間の支援計画を実施しています。計画には、書類の回復、一時的な住居、家族との再統合または家庭的な養育環境の確保、心理・社会面の支援が含まれます。
ウリューティン氏によると、「Bring Kids Back UA」の枠組みで2023年以降、1,276人に帰還後の支援が提供されました。支援には心理的援助、書類の再発行、医療上の必要への対応、教育への復帰などが含まれます。 ハブリロフ氏は、帰還した子どもが新しい環境への適応と、抑えられてきたアイデンティティの再構築を同時に迫られる「二重の適応」に直面すると述べています。










