
2026年10月28日、ブルガリア沖の黒海で無人機の攻撃を受けた貨物船が沈没し、乗組員18人は全員救助されました。黒海では商船への攻撃が相次ぎ、ウクライナの穀物輸出が滞るなか、小麦価格はこの1年で約2割上昇しています。航路の安全と代替輸送の難しさは、ウクライナの農業と国際的な食料供給に関わっています。
商船への攻撃と小麦価格の上昇
沈没したリベリア船籍の「Contship Jet Monrovia」は、イスラエルのハイファからルーマニアへ向かっていました。ブルガリア当局によると、乗組員18人は救助されました。ウクライナ政府はロシアによる攻撃だと主張し、ゼレンスキー大統領は民間船の航行を危険にする動きだと批判しました。
ブルガリアとルーマニアの当局、海事追跡サービスによると、最近の攻撃増加を受け、船員少なくとも30人が死亡または行方不明になっています。英国の海上安全コンサルタント会社アンブリー・アナリティクスのトマス・アレクサ氏は、危険の増加が海運事業のコストを押し上げると述べました。
シカゴ小麦先物は世界の小麦市場の基準価格の一つです。価格は2025年10月の1ブッシェル(約35リットル)当たり5.03ドル(約800円)から、2026年10月には6.03ドル(約950円)へ上昇しました。この1年間の上昇率は約2割です。米国・イスラエルによるイランとの戦争、地球温暖化、南アフリカの干ばつも価格上昇に影響したとされています。
ウクライナの港湾停止と輸出の制約
ロシアによる無人機やミサイルの攻撃で、ウクライナ最大の海運拠点オデーサの港湾業務は停止しています。ウクライナ農民・土地所有者協会のビクトル・ホンチャレンコ会長は、陸路で輸出できる穀物は半分をわずかに上回る程度だと述べました。また、収穫されず畑に残った小麦もあると説明しました。
ウクライナでは今年、最大6,000万トンの穀物が収穫されました。キーウを拠点とするアナリストのアレクセイ・クシュチ氏は、国外へ出せるのはその半分にとどまると推計しています。鉄道はすでに輸送量が限界に達しており、穀物をさらに運ぶ余地は乏しいといいます。
黒海の港が攻撃で使いにくくなった後、ウクライナ産貨物の多くはドナウ川沿いの3港を経由するようになりました。このルートでは1トン当たり約50ドル(約7,900円)の物流費が加わり、輸送の滞留も生じています。東欧諸国を通る鉄道輸送も使われ、2026年9月前半にこの経路で運ばれた穀物は約34万トンでした。同時期、東欧向けに出発した穀物車両は1日278両で、そのうちポーランド行きは65両でした。
代替ルートにかかる費用と政治的な制約
ウクライナ農業省はバルト海の港を使う案を検討し、同ルートで最大2,000万トンを輸出できる可能性を示しました。一方、バルト海までの輸送費は1トン当たり約100ドル(約1万6,000円)増えるとし、費用を補うには最大20億ドル(約3,200億円)の国際支援が必要だとしています。ウクライナはバルト海沿岸国と国境を接していないため、ポーランド経由が有力な輸送ルートになります。
陸路輸送では、貨物が通過先の国内市場に流入することへの懸念もあります。2023年、ポーランド、ハンガリー、スロバキアはウクライナ産穀物の輸入を禁止し、ポーランドでは農家による抗議行動も起きました。ポーランド政府は、ウクライナ産穀物の第三国への通過とポーランド市場への輸入を分けて扱う姿勢を示しています。
ウクライナは欧州委員会に対し、農家向け融資を補助する2億2,000万ユーロ(約390億円)の助成を要請しました。助成は、輸送再開まで穀物を保管し、損失を伴う売却を避けるためのものです。金銭支援で輸出再開までの時間を確保できても、船舶をウクライナの港へ戻すことは解決できません。
2022年の輸出回廊が担った役割
2022年7月、ロシア、トルコ、ウクライナ、国連は黒海穀物イニシアチブを開始しました。これは指定されたウクライナの港から穀物、食品、肥料を安全に輸出する仕組みで、イスタンブールに設けた共同調整センター(JCC)が運用を担いました。
JCCはオデーサ、チョルノモルスク、ユージヌイ/ピウデンヌイの3港を出入りする船舶の航行を調整し、貨物と乗組員を確認する検査も行いました。船舶は承認された海上回廊または指定された待機区域にとどまり、地上と衛星による追跡を受けました。この取り組みは2022年7月22日に始まり、当初の合意期間は120日間でした。
合意は2022年11月と2023年3月に更新され、2023年7月17日に終了しました。その期間に輸出された穀物と食品は3,200万トンを超え、世界食糧計画(WFP)向けの小麦は72万5,000トン以上に達しました。2023年7月の更新前には新たな船舶の参加承認が6月27日以降なく、7月14日までの輸出量は同月分として約25万3,000トンでした。










