老舗テーラーの魅力と高級スーツの価値
出典: otokichi-kobe.co.jp

売上は前期に87.8%増

神戸で160年近く続く柴田音吉商店は、ビスポークテーラー「柴田音吉洋服店」で自社ウェブサイトを軸にした集客を進め、若年層や女性の来店を広げました。2026年8月期の売上高は前期比87.8%増となり、女性客と30歳以下の客が全体の2割を占めています。

秋冬期(2025年9月〜2026年2月)の売上高は前年同期比87%増、春夏期(2026年3〜8月)は89%増でした。春夏期の売上構成比も例年の30%から38%に上がり、高級モヘヤ生地が春夏向けに支持されたことが大きく寄与しました。

売れ筋価格帯は35万〜70万円です。高級生地を選び、一度に200万円以上を注文した客が2人、100万円以上を注文した客が5人いました。

検索対策と新規客の来店

同店は7シーズン前から、検索結果で自社ウェブサイトを上位に表示させるSEO対策に取り組み、AI検索への対策も強化してきました。150周年を迎えた際にテレビや新聞など複数の媒体で取り上げられたことも、新規客との接点になりました。

新規客には東京から訪れる人もいます。2026年9月には20代の客が4人来店し、秋冬物も堅調でした。

柴田音吉商店は以前、工場生産のイージーオーダーも扱っていましたが、約10年前に自社工房で仕立てるフルハンドメイドの総毛芯仕立てへ切り替えました。一時は売上が減少したものの、その後回復し、客単価も上昇しました。

クラシックな仕立てを求める客層

女性向けオートクチュール店が減っていることや、1930年代などのクラシックなスーツを好む若い愛好家が、昔のディテールを再現した仕立てを求めて訪れることが、客層の広がりにつながっています。

柴田社長は、ビジネススタイルが多様化しても、ここぞという場面で着るスーツを必要とする客はいると話しています。良質なスーツを求める人がフルハンドメイドのオーダースーツに行き着くというのが、同社の見方です。

オーダー方式には、既製品のサイズを微調整するパターンオーダーや、既存の型紙を体型に合わせて補正するイージーオーダーがあります。これに対し、フルオーダーでは顧客に合わせて型紙を一から作り、仮縫いで試着と調整を重ねます。

総毛芯仕立てが支える形

スーツの芯地は、表地と裏地の間に入る資材です。胸から腹にかけての前身、襟のラペル、肩まわりなどに使われ、表からは見えない部分で形を支えます。

総毛芯仕立てでは、前身やラペルなどの芯地に毛芯を使い、生地と芯地を縫い合わせます。接着芯のように熱で貼り付ける方法と異なり、縫製には手間と技術が必要です。

毛芯を縫い付ける仕立ては、スーツに立体感を持たせ、形の復元力を高めます。芯地と表地の間にわずかな隙間ができることで自然な曲線を作りやすく、襟のロールも保ちやすくなります。 柴田音吉洋服店がこの仕立てを軸に据えたことは、既製品や簡易なオーダーとは異なる技術と工程を求める客層に向けた店づくりの一端です。