
細菌がシルクの上で色素を作る
ニューヨークのデザイン・研究会社Oxmanは、遺伝子を改変した細菌でニットシルクに色を付けるプロジェクト「Vigils」を公開しました。染料を布に塗る代わりに、布の上で細菌にインディゴとメラニンの色素を作らせます。試作では「Velum I」から「Velum IV」まで4着のケープを制作しました。
工程では、化学物質を付着させた繊維をニットの中に配置し、細菌の培養液を布へ噴霧します。細菌が化学的な誘導物質に触れると遺伝子の働きが切り替わり、酵素を作ってアミノ酸などを材料に色素を組み立てます。色が現れるまでの時間はおよそ24時間です。
使用するのは改変した大腸菌の一種で、誘導物質にはアンヒドロテトラサイクリン(aTc)とC14-HSLを使います。培養液には、液体が布の上で広がりすぎないようキサンタンガムを加え、メラニンとインディゴの前駆体となるアミノ酸も含めています。染色後は衣服を洗って乾かし、色素と模様を残します。
編み目が色の配置を導く
色の位置は、細菌を噴霧する前の編み方から設計します。コンピューター制御の編み機で編み目を個別に設定し、誘導物質を塗った繊維を立体的なニット構造の特定箇所へ組み込みます。細菌がその場所で誘導物質に反応するため、編み構造と化学的な合図が色素の配置に関わります。
Oxmanは、編み地を細菌が育つ足場として使い、「バイオリアクター」と位置付けています。ケープの隆起や谷に合わせ、誘導物質を塗った繊維を編み地の頂点や底部に置きます。生物の働きと布の構造を組み合わせて模様を作ります。
素材には、色素と化学的に結び付きやすいことなどからシルクを選びました。Oxmanは基礎となる誘導繊維の技術をウール、綿、ナイロンなどでも試していますが、繊維ごとの色の強さや完成品の耐久性を評価するには、さらに試験が必要としています。
従来のインディゴ染色と異なる工程
従来のインディゴ染色では、水に溶けにくいインディゴを還元して可溶性の形に変え、繊維へ運びます。その後、布を空気にさらすとインディゴが酸化して再び溶けにくくなり、繊維の中にとどまります。染料の溶けやすさを切り替えて布を染める工程です。
Vigilsでは、Oxmanは可溶性の前駆体を使い、布の中で不溶性の色素に変えるインディゴの方法を採用しています。従来法で使う化学的な還元工程を避け、細菌が布の上で色素を作る点が異なります。従来法の研究では、還元剤として亜ジチオン酸ナトリウムを使う方法が広く用いられ、排水中に硫酸塩や亜硫酸塩などが生じることが課題として挙げられています。
デニム染色の水使用量について、Transformers Foundationの調査は、すすぎと洗浄に使う水をロープ染色で1キログラム当たり15〜20リットル、スラッシャー染色で10〜15リットルと報告しました。工程上のベストプラクティスを適用した場合の値は、それぞれ3.85リットル、3.40リットルです。これらはデニムのすすぎ・洗浄工程の数値で、Vigilsの試作で使う培養液の量とは対象が異なります。
試作段階の耐久性と次の検証
Oxmanは、家庭用洗濯機と乾燥機を使った1回の洗濯・乾燥試験と衣服の取り扱いを初期評価として実施しました。その範囲では色素の移動や損失は見られなかったとし、化学誘導物質は最初の洗濯で洗い流されると説明しています。
製品化に向けた次の試験として、洗濯、摩擦、耐光性を挙げています。試作では1バッチにつきケープ1着を作り、Velum Iでは約9リットルの培養液を約24時間使いました。工業規模の工程としては最適化されておらず、商業利用に向けた協業先を探しています。
先行するVespersでは、Oxmanは紫外線硬化樹脂の中に色素を作る微生物を取り入れました。Vigilsではニットシルクを基材にしています。











