
皆既日食の画像が捉えたコロナの構造
2026年8月12日の皆既日食に合わせて撮影された高解像度画像から、太陽の外層大気にあたるコロナのコロナホールと、「スモークリング」と呼ばれる渦状構造が確認されました。画像はスペインのピコ・トリガサ山で撮影され、Solar Wind Sherpasプロジェクトに参加する研究者らが取得データを処理しました。
コロナホールは、太陽の磁力線が太陽表面へ戻らず、宇宙空間へ伸びている領域です。磁力線が開いた状態にあるため、太陽から流れ出る電荷を帯びた粒子の流れ、太陽風が通り抜けやすくなります。
皆既日食では月が太陽の明るい円盤を隠すため、通常は強い光に埋もれる内側のコロナを観測できます。宇宙望遠鏡などのコロナグラフは、装置内部の遮蔽物で太陽円盤を覆って観測しますが、皆既日食では月が自然の遮蔽物になります。
コロナホールから流れ出す高速太陽風
コロナホールからは、周囲より速い太陽風が流れ出します。今回の画像で捉えられたコロナホールでは、太陽風の速度が毎秒800キロメートルに達する可能性があります。
コロナホールでは、低密度のプラズマが開いた磁力線に沿って流れます。コロナホールの開いた磁場が高速太陽風と結び付くことは分かっていますが、開いた磁束管に沿う波状の揺らぎでエネルギーを受け取る過程と、閉じた磁力線から開いた領域へ物質やエネルギーが断続的に移る過程の寄与は、なお研究対象です。
太陽風を駆動するエネルギーについて、コロナホール内の複数の磁場がつなぎ替わる「磁気リコネクション」が供給源となる可能性も、観測やモデルから提案されています。太陽近傍の電流シートで起きる磁気リコネクションについては、現地観測で高エネルギー粒子との関係も調べられています。コロナホールの磁力線と高速太陽風の関係を、単一の加速過程だけで説明する段階には至っていません。
地球の磁気圏や通信への影響
高速太陽風が地球に到達すると、地球の磁場である磁気圏に影響し、磁気活動を引き起こすことがあります。条件によっては低緯度でもオーロラが見られ、強い事象では無線通信、衛星、航法システムに影響する可能性があります。
高速の流れが周囲の遅い太陽風とぶつかると、太陽風の圧縮領域が形成されます。この領域と高速太陽風が磁気圏に作用し、NOAAの宇宙天気予報センターは、弱いものから中程度にあたるG1〜G2級の地磁気嵐が起きる場合があるとしています。
太陽風の速さや地球への影響は、コロナホールの位置や規模にも関係します。太陽赤道付近のコロナホールは、地球で高速太陽風が観測される可能性が比較的高く、予報担当者はコロナホールや太陽風の影響を、3時間ごとの地磁気活動予報に反映しています。
渦状構造の観測と今後の計画
「スモークリング」は、煙草の煙の輪に似た形から付いた呼び名です。皆既日食の画像では2008年に初めて捉えられ、その正体は、太陽コロナのプラズマに生じる不安定性に関係した渦輪とされています。
2026年2月に発表された研究は、7件の皆既日食画像と、パーカー・ソーラー・プローブ搭載の広視野撮像装置WISPRによる別時期の白色光画像を組み合わせ、渦輪などの広がりを追跡しました。研究では、太陽から3太陽半径を超えた位置での渦輪の平均速度を毎秒249.02±25.3キロメートル、太陽から1太陽半径未満での速度を毎秒19.39±3.20キロメートルと推定し、太陽風の加速プロファイルと整合する結果を示しました。
研究チームは、渦輪が太陽から離れるにつれて消散せず、太陽風とともに広がることを示す観測上の証拠を報告しています。一方、画像を作成したミロスラフ・ドルクミュラー氏のチームは、2027年8月2日の皆既日食に向けてスペイン南部などでの観測を計画しています。次回の日食は皆既が最長6分半に及ぶ地域があり、チームは機材の大幅な刷新を予定せず、観測地の選定を進めています。









