
インプラント周囲炎で抗菌薬が効きにくい理由
歯科インプラントの周囲に起きる感染症「インプラント周囲炎」は、顎の骨を損なうことがあります。インプラントを受けた人の10〜20%に生じ、抗菌薬を使った治療の成功率は半数未満とされています。
天然歯の周囲に起きる歯周炎も、口腔内の同種の細菌から始まります。天然歯では抗菌薬と専門的な清掃で感染を抑えられますが、インプラント周囲炎では同じ薬が効きにくく、骨の損失が続く場合があります。
細菌だけでなく、インプラントの素材も感染の長期化に関わります。細菌が作る酸性のバイオフィルムがチタン表面を腐食させ、微細な粒子を周辺組織へ放出することが分かりました。
粒子が免疫細胞の働きを変える
チタン粒子には、細菌由来の毒素リポ多糖が付着します。免疫細胞はこの組み合わせを大きな細菌のように認識し、細菌を取り込むマクロファージが粒子を細胞内に取り込みます。
マクロファージはチタンを分解できないため、炎症が過剰に続きます。インターロイキン1βなどの炎症性物質が増え、インプラントを支える骨が徐々に損なわれます。一方で、細胞が感染した細菌を処理する力も低下します。
実験室でチタン粒子にさらされたマクロファージは、さらされていない細胞と比べ、取り込んだ細菌が半分未満でした。研究チームは、粒子が免疫反応を妨げる経路を調べるため、人の組織試料、培養した免疫細胞、遺伝子改変マウスを用いました。
既存研究から免疫経路の解明へ
2022年の研究では、インプラント表面を機械的に削って滑らかにする処置「インプラントプラスティ」によってチタン粒子が放出されることが調べられました。粒子にさらしたマクロファージでは、炎症に関わるTNF-αの発現が増え、抗炎症に関わるTGF-βとCD206の発現が低下しました。また、粒子を含む抽出液ではIL-1βの放出が増え、合金粒子の抽出液では骨形成に関わるRunx2とOCの発現が対照群より低下しました。
今回の研究では、粒子による炎症反応や骨形成への影響に加え、免疫細胞が細菌を処理する力を損なう経路も調べました。その結果、マクロファージにあるカルシウムチャネル「TRPC1」が、チタン粒子と細菌毒素による炎症反応の中心にあると特定されました。
TRPC1を持たないよう遺伝子改変したマウスでは、チタン粒子と細菌にさらしても膿瘍が小さく、炎症性物質が減り、細菌を処理する力が戻りました。この結果から、粒子が免疫細胞に与える影響を抑える治療標的の候補が示されました。
清掃方法と治療候補の検討
インプラント周囲炎の手術後には、定期的な専門的清掃を含む維持治療が行われます。2020年のランダム化比較試験では、手術から6〜18カ月の間、3カ月ごとにチタン製キュレットまたはキトサンブラシを使う方法が比較されました。
試験では44人が2群に分けられ、両方の方法で経過が追跡されました。観察期間を通じて炎症のあるインプラントの割合は高く、2つの清掃方法の間に有意な差はありませんでした。この試験は手術後の維持治療を扱っており、抗菌薬だけで治療する場合との比較ではありません。
日常の予防では、定期的な専門的清掃が重要とされています。天然歯向けの金属製スケーラーはインプラント表面を傷つけ、チタン粒子を生じさせる可能性があるため、現在は非研磨性の清掃方法が標準となっています。研究チームは米国国立衛生研究所の資金を受け、TRPC1と同じ経路に作用する薬剤候補を人の細胞で評価しています。










