
シェイクスピアとマーロウの共作と判定
1596年に匿名で出版された歴史劇『エドワード三世』について、計算機による文体分析は、ウィリアム・シェイクスピアが主に執筆し、クリストファー・マーロウも一部を担当したと判定しました。この結果は、同作をシェイクスピア作品群に加える根拠となり、2人の劇作家が共作したことを示しています。
分析では、シェイクスピアら10人の劇作家の作品と『エドワード三世』を比較し、言語上の特徴に基づいて作品を複数の区間に分け、執筆者を判定しました。その結果、23区間をシェイクスピア、9区間をマーロウに割り当てています。
シェイクスピアは、第13場冒頭にある、空が暗くなってフランス軍が恐れる場面の台詞を書いたとされます。一方、最終場の「戦の神マルスに仕える者、フランス人の恐怖であり国の名誉」という台詞は、マーロウに割り当てられました。
文体分析が見る言葉の特徴
分析では、特定の台詞が過去の別作品と似ているかだけでなく、語彙や機能語の使われ方など複数の特徴を調べています。機能語とは、前置詞や接続詞、代名詞など、文中で語と語の関係を示す言葉です。
初期近代英語劇を扱った別の計算研究では、機能語の頻度に加え、機能語同士がどのような間隔で現れるかをネットワークとして捉え、作者ごとの特徴と照合しました。作品を台詞単位に分け、各機能語から最大10語離れた位置までの組み合わせを分析しています。
この手法は、作者が判明している6人の劇作家の作品で検証され、作者の判別で高い精度を示し、単語頻度だけを使う方法を上回りました。共作とされる劇にも適用でき、場面ごとの分析によって既存の執筆者区分を裏付けたり、新たな分担を示したりしたと報告されています。
以前から続いていた作者論
『エドワード三世』では、シェイクスピアが少なくとも一部の場面を書いた可能性が以前から指摘されてきました。2016年版の『ニュー・オックスフォード・シェイクスピア』も、同作の一部をシェイクスピアが執筆したとの見方を示しています。
共同研究者のロリー・ラフネイン氏によると、マーロウの関与が本格的に論じられたのは今回の分析が初めてです。2016年の別の研究では、シェイクスピアの『ヘンリー六世』三部作にもマーロウが共作したとの見方が示されていました。
マーロウとシェイクスピアは、同時代の劇作家として競争関係にあったと捉えられてきました。ラフネイン氏は今回の結果について、2人の関係は単なる競争相手や互いへの影響にとどまらなかったと語っています。
区間ごとの判定と研究の位置づけ
『エドワード三世』の各区間は、劇作家10人の確実な作品との比較に基づいて分類されました。マーロウの作品に現れやすく、ほかの劇作家には比較的少ない「martial(武勇の)」などの語も、判定に用いた特徴の一つです。
リーズ大学のブレット・グレートリー=ハーシュ氏は、異なる言語特徴を調べる複数の分析が、劇中のマーロウとシェイクスピアの文体を繰り返し区別したことを、証拠の強さとして挙げています。研究では、個々の語句の類似だけに頼らず、複数の分析結果を重ねています。
今回の分析は、シェイクスピアを主な執筆者とし、マーロウに9区間を割り当てました。この文体分析は、シェイクスピアの初期作品群とマーロウとの関係をめぐる議論に新たな根拠を加えています。











