
ケンブリッジ大学の研究チームは、約10ドル(約1,600円)で製造できる小型の光学分光器を開発しました。食品や素材の識別に加え、1人の参加者を対象に、皮膚を刺さずに血糖値を追跡する実演も行いました。
光を数理処理する小型分光器
分光器は、光を分析して対象物の成分や性質を調べる装置です。研究チームは、ケンブリッジ大学と、同じ研究グループが設立した新興企業GlitterinTechの研究者で構成されています。
今回の装置は、光のスペクトルを得る際に「畳み込み」という数学的な処理を光学系の中で行います。周期的な応答を持つ光学部品を連ね、各部品の応答を比例して調整した後、高速フーリエ変換でスペクトルを復元します。
装置は窒化ケイ素のフォトニック集積基盤上に実装され、電子回路と一体化されています。センチメートル規模で、近赤外線の波長1,200〜1,700ナノメートルを扱い、測定と処理は1秒未満で行います。
分散型・フーリエ変換型との違い
分散型分光器は、光を波長ごとに分けてスペクトルを読み取ります。小型化した分光器では測定範囲や分解能、精度が制約されることがあり、物質の精密な測定が難しくなると研究チームは説明しています。
フーリエ変換型では、ミケルソン干渉計などで光を干渉させ、得られた信号から計算機でスペクトルを復元する方式が使われてきました。この方式は光を効率よく集められる一方、スペクトルの復元に大規模な計算機設備や専用の計算装置を要する場合があります。1967年の技術解説でも、この点が述べられています。
別のフーリエ変換型の研究では、複数のファブリ・ペロー干渉計を使い、一方を固定し、もう一方を走査する構成が分析されました。装置全体の応答を表す積分方程式を解いてスペクトルを復元する手法が提案され、試した設計条件とノイズ条件の下で再構成誤差を小さくできると報告されています。
今回の方式は、光学系で畳み込みを行い、フーリエ変換でスペクトルを復元する構成です。研究チームは、従来の分散型、フーリエ変換型、計算再構成型と比べ、精度やノイズ耐性、計算負荷の面で利点があると評価しています。
食品・素材での測定結果
研究チームは、プラスチック、医薬品、コーヒー、小麦粉、茶を使って装置を試験しました。報告された試験では、これらの分類で100%の成功率を記録しました。
水溶液と有機溶液の濃度測定では、精度は約0.01%でした。研究チームは、この実験で市販の卓上型分光器を上回る結果だったと報告しています。
温度をマイナス20度から80度まで変えた試験でも、装置は動作を続けました。研究チームによると、測定範囲は光学部品の追加で広げられ、部品を連ねることで分解能を高められる設計です。
血糖測定の実演と医療機器の要件
生体試料を使った実演では、皮膚の水分、血中アルコール、乳酸、血糖を測定しました。血糖については、1人の参加者を対象に、皮膚を刺さずに一定期間追跡する試験を行っています。
米国の連続血糖測定システムに関する規則では、対象となる利用者集団で精度を示す臨床データが求められます。血糖値を並行して採取した検体と比較し、測定範囲全体と使用期間を通じた性能を評価する要件もあります。
同規則では、測定値の精度に加え、データ送信の信頼性、干渉物質がある条件での性能、利用者が安全に測定できることも評価対象です。小型分光器の血糖測定を糖尿病管理に使うには、こうした臨床評価や安全性の検証が求められます。
血糖値を治療判断に使う際の評価
米食品医薬品局(FDA)が2016年に開いた会合では、Dexcom G5の連続血糖測定システムについて、成人50人と小児79人の臨床試験結果が示されました。血糖値の範囲ごとに、測定値が実際の値とどの程度一致するかを評価しています。
FDAは、測定値や変化傾向を治療判断に使う場合のリスクも検討しました。センサーの精度評価に加え、コンピューターシミュレーションと、利用者が安全に使えるかを調べる人間工学的評価も取り上げています。
FDAのシミュレーションでは、食事時のインスリン投与や低血糖への対応などをモデル化し、低血糖アラートの有無も比較しました。結果には、仮想利用者の設定や行動に関する仮定による制約があります。











