
人骨のない地層から核DNAを回収
スペイン北部のエル・ミロン洞窟で、人骨が見つかっていない約2万2000年前の地層から、複数の人に由来する古代DNAが回収されました。研究チームは堆積物から約1万4000個のヒト一塩基多型を得て、最終氷期のヨーロッパにおける集団の移動と遺伝的なつながりを調べました。
一塩基多型は、DNAの塩基配列に見られる個人差です。今回得られた核DNAには父母双方から受け継いだ遺伝情報が含まれるため、母系をたどるミトコンドリアDNAより幅広く、祖先集団の構成を調べる手がかりになります。
試料は米粒数粒ほどの量で、利用できる情報を得るには100回のシーケンスが必要でした。研究チームは10億を超えるDNA断片を調べ、現代のDNAが混入した可能性も考慮して分析しました。
西方系統の継続を示す結果
エル・ミロン洞窟の試料から得た遺伝情報は、ヨーロッパ南西部に広がっていた「フルノー系統」に関連する祖先構成を示しました。研究チームは、この系統が最終氷期最盛期にも同地域で続いていたと結論づけています。
研究で比較した「ヴェストニツェ系統」は、主に中央ヨーロッパやイタリアの個体で確認されてきた遺伝的集団です。フルノー系統は西・南西ヨーロッパに関連づけられ、約2万7000年前のベルギーの個体には両系統に由来する混合が見られます。
今回の約2万2000年前の試料では、東方系統による大規模な置き換わりや集団の断絶は確認されず、南西ヨーロッパでの遺伝的な継続が支持されました。研究チームはさらに、約3万1000年前のフランスの女性と約2万5000年前のスペイン北部の歯のDNAも比較し、最終氷期最盛期より前に東西の集団間で遺伝子の移動があった可能性を示しています。
堆積物からDNAを見つける手順
堆積物には、人間だけでなく動物や微生物など、さまざまな生物のDNA断片が含まれます。古代DNAの分析では、試料からDNAの信号を探し、対象となる生物の遺伝情報を詳しく解析します。
別の研究では、複数の堆積物試料から抽出したDNAをまとめて検査し、古代DNAの信号が見つかったまとまりだけを詳しく調べる方法が検討されました。最大5試料をまとめても信号を検出でき、研究チームはこの手法で費用を最大70%、実験室での作業時間を5分の1に抑えられると報告しています。

この方法は多数の試料を効率よく選別するためのもので、エル・ミロン洞窟の研究で採用された手順とは異なります。今回の研究では、堆積物から古代の核DNAを得て、複数の個体が混じった試料の遺伝情報を人口史の分析に用いました。
化石記録を補う研究上の意義
約2万2000年前の人骨は非常に少なく、この時期の集団史を調べるためのゲノム情報も限られていました。堆積物由来のDNAを使えば、骨や歯が残っていない遺跡からも人類の遺伝情報を得られ、化石記録を補えます。
堆積物中のDNAは複数の人に由来することがあり、劣化や現代のDNAの混入も分析上の課題です。試料から得られた遺伝情報を過去の集団に結びつけるには、遺跡の層や年代、ほかの個体のゲノムとの比較が重要になります。
今回の研究は、堆積物から得た核DNAを使い、南西ヨーロッパでの祖先構成が最終氷期最盛期を通じて続いたことを示すデータを加えました。研究チームは、今後さらに人骨のゲノムと堆積物DNAを統合し、旧石器時代の集団史を明らかにする必要があるとしています。









