
分子を速く通しながら分離精度を保つ膜
クイーンズランド大学の研究チームは、膜の中にある幅1ナノメートル未満の通路を動的にし、分子の移動を速める技術を開発しました。エタノールと水を分ける実験では、標準的なろ過膜と比べて分離精度が10倍になり、水の輸送量は約44%増加し、エタノールは90%減少しました。
膜は、混合物から特定の分子だけを通す分離技術です。化学物質の精製や資源回収、燃料生産などに使われます。研究チームは、処理量を増やすために分子の通過を速めると、分離精度を保つのが難しくなる課題に取り組みました。
膜の通路は幅が1ナノメートル未満で、人の髪の毛の約10万分の1です。研究チームは通路の大きさや化学的性質を変えず、アンモニウムイオンを導入して通路内を動的な環境にし、分子の移動を促しました。
透過性と選択性が両立しにくい理由
膜の性能を考えるうえでは、分子の通りやすさを示す「透過性」と、目的の分子を選び分ける「選択性」が重要です。2017年のレビューでは、合成膜は透過性を高めると選択性が低くなりやすく、その逆も起きるというトレードオフが整理されています。
この関係は、水の浄化から石油精製、化学品の製造、二酸化炭素の回収まで、エネルギー効率のよい分離技術が求められる分野に関わります。膜材料の設計では、透過性と選択性の双方を高める方法が研究されてきました。
生物の膜に見られる設計上の特徴を合成膜に取り入れる方法も、トレードオフを乗り越える研究例です。膜の性能は透過性と選択性だけで決まるわけではなく、ほかの要因も設計に影響します。
ナノチャネルを回転するイオンで調整
クイーンズランド大学の技術では、導入したアンモニウムイオンが自ら回転し、分子が通る環境に動きを与えます。研究チームは、通路内で分子の移動を促しながら、分離精度も保つ仕組みを実験で確かめました。
これらの数値は実験で得られた結果で、工業プロセスでのエネルギー消費削減は今後の可能性として示されています。研究を主導したシワン・チャン教授は、分子を速く動かしながら分離精度を保てれば、こうしたプロセスのエネルギー消費を減らせる可能性があると述べました。
工業利用に向けた課題
膜分離を実際の水処理などで使う際には、膜の表面や孔に不要な物質が堆積する「ファウリング」も性能に影響します。付着物が蓄積すると、通過する水の流量や分離性能が低下し、膜の寿命も短くなることがあります。
ファウリングの起こりやすさには、膜の表面形状や粗さ、親水性、材料のほか、処理する液体の組成や運転条件が関わります。付着物には粒子、有機物、無機物、微生物があり、孔の内部や膜表面に蓄積します。
チャン教授は次の段階として、省エネルギー型の工業分離、資源回収、二酸化炭素の利用、環境保護への応用を挙げました。









