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乳児のアカゲザルに実験的なCCR5/CD3二重特異性抗体を1回投与したところ、抗レトロウイルス治療の終了後も、複数の個体でサル免疫不全ウイルス(SIV)が長期間血中から検出されませんでした。最長の個体では約4年間、ウイルスの再増殖が確認されていません。ヒトのHIV治療として有効性や安全性が確かめられた段階ではなく、早期感染した乳児ザルでの研究結果です。

CCR5を持つ細胞をT細胞に攻撃させる

HIVとSIVは、細胞表面にあるCCR5という受容体を侵入に利用できます。細胞内に入り込んだウイルスは遺伝情報を細胞のDNAに組み込み、薬で増殖を抑えても潜伏状態で残ることがあります。

今回の抗体は、CCR5と免疫細胞の一種であるT細胞にあるCD3の両方に結合します。これにより、CCR5を持つ細胞へT細胞を向かわせ、ウイルスを保有している可能性のある細胞や、今後感染しうる細胞を攻撃させます。

研究チームは新生児のアカゲザル25頭をSIVに曝露し、うち20頭が感染しました。感染から1週間後に抗レトロウイルス治療を始め、抗体を加える群には治療開始の2日後に1回投与しました。薬だけの群、CCR5/CD3抗体を加える群、CD4を標的にする別の抗体を加える群を設け、治療終了後にウイルスの再出現を調べました。

投与後に見られた長期のウイルス抑制

薬だけを投与した動物では、治療を止めてから1週間以内に、すべての個体でウイルスが血中に再出現しました。CD4を標的にした抗体の群では、8頭中6頭で7日以内に再出現し、1頭では追跡終了まで検出されませんでした。

CCR5/CD3抗体を投与された個体のうち4頭では、3か月を超えて血中にウイルスが確認されませんでした。別の2頭では治療終了後97日と173日に再出現し、もう1頭は約29週間の追跡終了まで再出現しませんでした。最も長く追跡された個体では、血中で検出されない状態が4年間続きました。

研究チームは長期抑制が続いた3頭で追加検査を行いました。ウイルス抑制に関わるCD8 T細胞を一時的に減らしても再出現はなく、組織検査ではウイルスの遺伝物質が見つからず、リンパ節細胞から感染性ウイルスも回収されませんでした。一方、4年間追跡した個体の検体からウイルスRNAの可能性がある微弱な信号が1つ検出されており、研究チームは汚染の可能性を排除できていません。

CCR5を遮断・改変する方法との違い

CCR5を標的にする既存の方法には、受容体を薬剤などで阻害する方法や、遺伝子編集でCCR5の発現を抑える方法があります。CCR5/CD3抗体は受容体をふさがず、CCR5を発現する細胞を免疫細胞に攻撃させる点で異なります。

CCR5阻害薬は、CCR5を使って細胞に侵入するウイルスを対象に、その侵入経路を妨げます。遺伝子編集ではCCR5遺伝子を改変し、受容体が細胞表面に現れない状態を目指します。これに対し今回の抗体は、一時的な投与でCCR5陽性細胞を減らし、潜伏ウイルスを含みうる細胞群そのものを縮小する狙いです。

抗レトロウイルス薬はウイルスの増殖を抑えますが、潜伏感染細胞に残るウイルスは取り除きません。研究チームは、CCR5/CD3抗体によって細胞が一時的に減少した後、複製能力のあるSIVの貯蔵場所が大きく減ったことを示す結果を報告しました。ただし、この実験で示されたのは乳児ザルでの結果であり、ヒトでの治療効果を示すものではありません。

幹細胞移植による寛解例とは異なる治療

ヒトでは、がんなどの治療として同種造血幹細胞移植を受けた後、HIVの長期寛解が報告されています。2026年の症例報告では、CCR5Δ32/Δ32変異を持つ兄弟をドナーとした移植から5年後も、患者の血中HIV RNAは検出されず、抗レトロウイルス治療の中断後も寛解が続いていました。

移植後、その患者の血液、骨髄、腸の組織ではドナー由来の細胞がほぼ全面を占めました。抗レトロウイルス治療は移植後24か月で中断され、移植後48か月の血液と腸の検体からは、完全な形のHIV DNAが検出されませんでした。

幹細胞移植は、がんなどの治療に伴い、ドナー由来の免疫細胞へ置き換える治療です。乳児ザルに抗体を1回投与した今回の実験とは、手順も対象も異なります。研究対象は感染早期に治療を始めた乳児ザルで、成体や長期感染への効果は確かめられていません。CCR5を持つ非感染細胞も標的となるため、別の感染症への防御に影響する可能性も検討課題です。