a close up of water droplets on a blue surface
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植物の水輸送組織を手本にしたSLIP

ワシントン大学セントルイス校の研究チームは、植物由来のリグニンと脂肪酸を使ったフッ素不使用の撥水コーティング「SLIP」を開発しました。水をはじき、紫外線による劣化にも耐える性質が示されており、PFAS(有機フッ素化合物)の用途の一部を代替する材料として研究されています。PFASは包装材や防火、撥水コーティングなどに使われる一方、環境や健康への負荷が問題になっています。

SLIPは「超撥水性リグニン一体化粒子」を意味します。設計の手本は、植物の水輸送組織である木部に含まれるスベリンです。研究チームはスベリンの構造を参考に、植物廃棄物であるリグニン粒子を脂肪酸と結び付け、さらにポリ乳酸(PLA)を結合材として加えました。

試験では、水滴が表面で弾かれ、木材を分解する菌によってコーティングが有害性のない有機物へ分解される性質も確認されました。リグニンと脂肪酸は、環境中で分解する素材として使われています。研究チームは、包装材や建材の表面処理への利用を想定しています。

撥水だけではPFASの用途を置き換えられない

PFASが担う機能は水をはじくことだけではありません。用途によっては、油や汚れ、化学物質への耐性、電気絶縁性、熱や炎への耐性も求められます。そのため、水をはじくSLIPだけで、油や火への耐性が必要な用途まで代替できるとは限りません。研究チームは、用途を広げる次の段階として、SLIPに耐油性と耐火性を加える研究を挙げています。

PFASを使わない表面処理の別例として、ドイツのフラウンホーファー珪酸研究所(Fraunhofer ISC)は、無機材料と有機材料を組み合わせたハイブリッドポリマー「ORMOCER」を開発しています。分子設計や添加剤、表面構造を調整し、用途に合う性質を持たせる方式です。同研究所は、包装材、繊維、自動車、医療機器、航空宇宙などでの利用を挙げています。

ORMOCERは、素材の組み合わせや設計によって、水や油などをはじく性質に加え、耐熱性や電気絶縁性を持たせることを目指しています。コーティングは連続使用で最高280度の耐熱性を持ち、酸や洗浄剤、溶剤、油にも耐えます。予備的な生分解性試験では、ハイブリッドコーティングの90%が分解したとされています。

欧州では用途ごとの規制が段階的に適用

欧州連合(EU)では、PFAS全体を一度に対象とする規制案の検討が続く一方、特定の物質や製品用途を対象にした制限も設けられています。一例として、PFHxAとその塩、関連物質への制限があり、2026年10月10日から一般向け衣類や関連アクセサリー、履物に適用されました。規制値は均質な素材ごとに測定され、PFHxAとその塩の合計は25 ppb、PFHxA関連物質は1,000 ppbです。

ドイツ連邦環境庁は、短鎖PFASの一種であるPFHxAが規制済みのPFASの代替として使われることがある一方、環境中に残留し、水を通じて移動する懸念もあると説明しています。PFHxAなどを対象とするEU規制には、繊維や食品接触材料などで18カ月から5年の移行期間が設けられています。規制対象が個別物質から用途、さらにPFAS全体へ広がる可能性が、代替材料の性能や適用範囲を見極める背景になっています。

フランスでは2026年1月から消費者向け衣類や履物などを対象にPFASの規制が適用され、デンマークでは同年7月から衣類・履物の各部品に含まれる総フッ素量に上限が設けられました。EUでは2027年10月に、他の一般向け繊維製品などへPFHxA規制が広がる予定です。一方、PFAS全体を対象とするEU規制案は、化学物質のリスク評価と社会経済分析の審査を経た後、欧州委員会が正式案を提出する段階にあります。

製造工程への拡大が次の課題

SLIPの原料には、紙・パルプ製造などで生じる植物由来のリグニンと脂肪酸が使われています。研究チームは製造工程の規模拡大と、バイオリファイナリーや製紙・パルプ産業への統合を進めています。Texas A&M大学の研究者と行った推計では、防水用途でPFASをSLIPに置き換えた場合、健康・環境への社会的損害を年間11億ドル(約1,700億円)削減できる可能性があります。

ただし、PFASが使われてきたすべての用途で必要な機能を、SLIPが備えているわけではありません。耐油性と耐火性の追加は、包装材や建材以外へ利用を広げるために研究チームが挙げる課題です。ORMOCERのように用途に合わせて性質を調整する材料も開発されており、代替材料は用途ごとに必要な機能を満たすよう選定されています。

研究チームは、自然界の高分子に近いライフサイクルを持ち、分解可能な素材の設計を目標にしています。