理化学研究所計算科学研究センター(R-CCS)は、CEATEC 2026で、AIを科学研究に活用するための計算基盤や、量子コンピュータとスーパーコンピュータを連携させる取り組みを紹介します。AI向けスパコン「理究」の整備状況や、量子HPC連携プラットフォームの運用が主な話題です。研究環境の紹介に加え、計算科学を産業分野へ応用する事例や講演も予定されています。
「理究」はAIを使う科学研究向けに整備
理究は、AIを活用する科学研究を支えるために設計されたスーパーコンピュータです。神戸市のR-CCSに設置され、NVIDIAのGB200 NVL4を搭載した400ノードで構成されています。計算ノードにはBlackwell GPUを計1,600基搭載し、1ノードあたりGPU 4基とGrace CPU 2基を備えます。
公表された性能は、FP8で15.539EFLOPS以上、FP64で64.16PFLOPS以上です。FP8はAI計算で使われる8ビット浮動小数点演算、FP64は科学技術計算などで使われる倍精度演算を指します。理究は本格稼働に向けた整備が進められており、CEATECではシステムの構成や研究での利用を紹介する予定です。
理研は、AIが研究者の問いに答えるだけでなく、仮説づくりやシミュレーション、実験結果の分析を支える構想を示しています。AIと大規模シミュレーション、研究データを組み合わせて科学研究のサイクルを速めるには、計算資源に加えて、各システムを連携して使う技術も必要になります。
「富岳」と次世代機は異なる役割を担う
「富岳」はシミュレーションなど幅広い科学技術計算に使われている一方、理究はAIを活用する科学研究を進めるための新しい計算機として位置付けられています。理研は、富岳による研究成果も展示し、理究などのAI向け基盤と、既存の計算環境を含む研究基盤全体を紹介します。
近藤正章氏は2025年、2030年ごろの計算資源需要が2023年比で5倍以上になるとの見込みを示しました。近藤氏は、富岳の537PFLOPSと基盤センター群の約600PFLOPSを合わせても、需要に対して大幅に不足すると予測しています。
近藤氏は富岳NEXTの開発方針として、富岳の利用者に現行の5~10倍以上の実効計算性能を提供し、AI性能も高めることを目標に掲げています。富岳NEXTは富士通とNVIDIAとの共同開発が進み、2030年度ごろの運用開始を見据えています。理究が稼働に向けて整備されるなか、富岳NEXTは次世代のAI・HPC融合を担う計画です。
富岳NEXTはAIとHPCの融合を目指す
HPCは高性能計算を指し、科学シミュレーションなど大規模な計算に使われます。理研は2025年10月、富岳NEXTについて、科学研究データを学習した科学基盤モデルを実験自動化やシミュレーションと組み合わせ、研究の自動化を進める構想を説明しました。
理研はシステム全体の目標として3,400ノード以上、FP64ベクトル性能2.6EFLOPS以上を掲げています。AI計算向けにはFP8行列演算性能300EFLOPS以上、スパース性を考慮した場合は600EFLOPS以上を目標としています。
理研は、AIとHPCの高度利用やアプリケーションの改良を通じ、富岳に比べて最大100倍程度のアプリケーション実効性能向上を目指しています。これは目標値であり、個々のアプリケーションで同じ向上幅が得られるという意味ではありません。富岳NEXTの開発では、ハードウェアだけでなく、ソフトウェア環境の継続的な整備も進める方針です。
ROQUOは量子コンピュータとスパコンをつなぐ
理研とソフトバンクが共同提案したJHPC-quantumプロジェクトは、量子コンピュータとHPCを高速ネットワークで結び、両者の計算を組み合わせる研究基盤です。理研は、この基盤向けのスーパーコンピュータ「ROQUO」を2026年6月から運用しています。
ROQUOはNVIDIA Blackwell GPUを540基搭載し、Grace Blackwellスーパーチップ搭載ノード135台で構成されています。FP64性能は21PFLOPS以上です。「富岳」と同じ建屋内に置かれ、低遅延のネットワークで接続されています。
ROQUOは、神戸の超伝導型量子コンピュータ「ibm_kobe」と、和光キャンパスのイオントラップ型量子コンピュータ「黎明」にも接続されています。理研は、この構成を使って量子計算とHPCを組み合わせた計算を実証する環境を整えています。CEATECでは、材料や化学、ものづくり、情報通信、医療などの分野から41件が採択されたテストユーザープログラムの成果も紹介する予定です。
展示に加え講演で産業利用を紹介
R-CCSの展示は、AI for Scienceの全体像を示すゾーンと、個別の計算基盤や研究事例を紹介するゾーンで構成されます。巨大地震の被害予測、放射光施設と連携したインフラ劣化診断、創薬、デジタルツインなど、AIやシミュレーションを使った研究事例も取り上げます。
富岳の活用例としては、神戸市内の街と人の動きを再現して災害時の避難を検討する研究や、全長約2,700メートルの橋と周囲の風を約2億要素に分けて計算した耐風設計の研究が紹介されます。理研は、こうした研究成果を暮らしや産業を支える計算科学の例として展示します。
10月15日には、AI for Scienceの政策動向や理研の科学基盤モデル開発、研究現場への実装を扱うコンファレンスが予定されています。翌16日の講演では、量子・スパコン連携のほか、3D生成AIとCAE、自動車空力設計、富岳を使った液体ロケットエンジン燃焼器のシミュレーションが取り上げられます。








