a mouse on a branch with berries
Photo by Glen Hooper on Unsplash

メニン低下と加齢の関係をマウスで検証

メニンは、脳の視床下部で炎症を抑えるタンパク質です。研究チームは、マウスの加齢に伴って視床下部のメニン量が減り、その低下が炎症や身体機能の変化に関わる可能性を調べました。

若いマウスでメニンの働きを抑えると、視床下部の炎症が強まり、骨量や皮膚の厚さ、認知機能が低下しました。寿命も対照群より短くなりましたが、差はわずかでした。

この結果から、メニンの減少が加齢に伴う変化の一部に関わる可能性があります。研究チームは次に、高齢マウスでメニンを回復させると、こうした変化が改善するかを調べました。

30日後に骨量や学習・記憶が改善

研究チームは、20カ月齢のマウスの視床下部にメニンの遺伝子を届け、メニンの産生を高めました。対象は、代謝やエネルギー調節などに関わる腹内側視床下部です。

処置から30日後、マウスでは皮膚の厚さと骨量が増え、学習、認知、バランスの検査成績も改善しました。視床下部の炎症が低下し、加齢に関連する一部の代謝変化も改善しました。

別の生存分析では、メニン処置を受けたマウスは未処置群より長く生存しました。これは遺伝子を用いたマウス実験の結果で、人でも同様の効果が得られることを示すものではありません。

D-セリンは認知機能の一部に作用

メニン量が低下すると、脳内で神経細胞の信号伝達に関わるアミノ酸、D-セリンも減少しました。メニンはセリンの合成経路に関わる酵素PHGDHの産生を調節します。メニンを回復させると、記憶に関わる海馬のD-セリン量も増えました。

研究チームが高齢マウスの飲み水にD-セリンを加えると、3週間後に学習と記憶の検査成績が改善しました。一方、D-セリンを補給しても骨量や皮膚の厚さは回復せず、メニン回復で見られた全身の変化は再現されませんでした。

人での効果を調べた小規模試験では、健康な高齢者50人にD-セリンを30 mg/kg、オレンジジュースに混ぜて投与しました。空間記憶テストでは誤答が減りましたが、プラセボとの比較がなく、練習効果の可能性も指摘されています。

この試験では、空間記憶以外の作業記憶、認知の柔軟性、視覚的注意、気分に効果は見られませんでした。人を対象とした試験とマウス実験では、記憶への改善幅や投与期間を直接比較できません。

アルツハイマー病モデルでは異なる変化

D-セリンの作用は、病態や脳内の状態によって異なる結果が報告されています。2025年のアルツハイマー病モデルマウス研究では、病気の初期にD-セリンの増加と脳内信号の乱れが伴いました。また、D-セリンを作る酵素を取り除くと、その後の認知障害が抑えられるか、軽減しました。

別の研究では、アルツハイマー病の特徴を持つ若い雌マウスの海馬で、初期段階に細胞外L-セリンが減り、同じ領域の糖代謝も低下していました。前頭皮質では同様の代謝変化は見られませんでした。

このモデルでは、D-セリンまたはL-セリンを急性投与すると長期シナプス可塑性が回復しました。L-セリンを継続して経口投与すると、記憶障害と海馬のアストロサイト萎縮が改善しました。こうした結果は、加齢マウスのメニン低下に伴うD-セリン減少とは異なる病態条件で得られたもので、D-セリンを増やせば常に認知機能が改善するとは限りません。

人への応用には安全性の検討が必要

D-セリンは、神経細胞の信号伝達に関わるNMDA受容体の調節に関与します。アルツハイマー病などでは、この信号系の状態が加齢に伴う記憶低下とは異なる場合があり、投与の影響も同じとは限りません。

動物実験では、高用量のD-セリンによる腎臓への懸念が挙げられています。長期間の摂取で、健康な人の加齢に伴う記憶低下を予防または治療できるかは確立していません。