Brown fat cells with mitochondria labeled in magenta. (Image acquired on a CSR Biotech Cell Xtreme microscope on demo at the BIRC)
出典: rockefeller.edu

褐色脂肪組織(BAT)はエネルギーを熱に変える脂肪組織です。米ロックフェラー大学などの研究チームは、医療記録を使ってBATと複数の病気との関連を調べました。約10万人の解析では、BATが確認された人は心血管疾患や精神疾患の有病割合が低く、降圧薬ロサルタンはマウスのBAT活性を高めました。ロサルタンによる活性化が人の健康に及ぼす影響は、この研究では評価されていません。

10万人超の記録からBATと病気の関連を調査

研究チームは、米国のがん専門医療機関で集められた101,243人分の記録を解析しました。画像診断のPET-CT画像から、機械学習を用いてBATの有無や活動量を調べています。

BATが確認された人は8,897人でした。年齢、性別、BMI、撮影時の気温などをそろえて比較すると、BATがあるグループでは心血管疾患と精神疾患の有病割合が低い傾向が見られました。

活動量の高いBAT、とくに腋窩部のBATは、心臓や代謝に関わる病気の低いオッズと関連していました。血糖、脂質、炎症マーカー、心エコー検査の指標も、より良好な傾向を示しました。

ロサルタンの関連とマウスでの検証

薬の使用記録では、アンジオテンシン受容体拮抗薬を使う人ほどBATが確認されやすいという関連が見つかりました。ロサルタンはこの種類の降圧薬です。

研究チームはマウスを使った実験で、ロサルタンの投与後に褐色脂肪細胞の活動が高まり、全身のエネルギー消費と熱産生が増えることを示しました。降圧作用とは異なる分子経路を通じて働いたと報告しています。

マウスで確認された活性化が人の病気を減らすかどうかは、今回の実験では扱っていません。BATの活性化による健康上の効果を人で検証することは、今後の研究課題です。

成人のBATはマウスと構成や働きが異なる

マウスは体温維持で褐色脂肪への依存度が高く、人よりBATの役割が大きいとされています。このため、マウスで得られた活性化の結果をそのまま人に当てはめることはできません。

人の成人にもBATはありますが、主にベージュ脂肪細胞で構成されると考えられています。ベージュ脂肪細胞は白色脂肪組織の中に誘導される細胞です。刺激に応じて現れ、刺激がなくなると減少します。

これに対し、古典的な褐色脂肪細胞はマウスで発達し、肩甲骨の間などに細胞の塊を作ります。人の成人では、BATは鎖骨上窩や腋窩、背骨の周辺などに分布し、年齢とともに活動が低下します。

人での検証に残る課題

今回の人の解析で示されたのは、BATの存在と病気の有病割合との関連です。BATが病気を減らしたという因果関係を示すものではありません。

解析対象者は全員がんと診断されており、女性が4分の3を超えていました。結果を幅広い人々に当てはめるには、異なる集団での検証が必要です。

研究チームは、AIを使った大規模な画像解析と薬剤データの分析を、人でBATを活性化する方法を探る基盤と位置づけています。ロサルタンについても、人での有効性や安全性を示す結果ではなく、今回の知見はマウス実験を含む研究段階にあります。