EH Micro Synthesizer
写真: Karl Jonsson / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons

AIコーディングツールを使い、シンセサイザーやサンプラー、エフェクターに独自機能を加えるカスタムファームウェアが相次いでいます。安価な機材や旧型機を改造する動きが広がる一方、導入すると機器が起動しなくなるリスクもあります。

FM-1から広がったカスタムファームウェア

動きの中心にある機材の一つが、M-Vaveの小型シンセサイザー「FM-1」です。標準仕様は6つのオペレーター、32種類のアルゴリズム、128音色を備え、最大12音の同時発音に対応します。

コミュニティーが作ったファームウェアによって、FM-1にはバーチャルアナログ音源やサンプル再生、複数トラックのシーケンサーなどが加わりました。複数の音源方式や操作画面を選べるようになり、基本機能が限られていた機材でできることが増えています。

M-VaveはFM-1向けのオープンソースファームウェア「FM1 Open」と、開発キット、書き込みツールを発表しました。開発者向けの公式環境も登場し、ユーザー制作のファームウェアとメーカー側の取り組みが並行しています。コミュニティーのリソースには、公式ファームウェアの開発キットに加え、ブラウザー上のシミュレーターとUSB書き込み環境があります。

LLMが支える機材の改造

「バイブコーディング」は、開発者が作りたい機能を言葉で伝え、LLM(大規模言語モデル)にコード作成を支援させながら試作を進める開発方法です。音楽機材の改造では、機器の仕様を調べ、実装を試し、ハードウェアやソフトウェアの制約に合わせて修正する作業にAIツールが使われています。

Zoomのマルチエフェクター「MS-70CDR」を改造したRoman Rusinovは、AIを使って開発の基礎を学び、カスタムエフェクトの仕組みを調べました。最終的に同機で、アンプの音響特性を記録したNAM A2 Liteやカスタムのインパルス応答を動かせるようにしています。

Elektronの「Model:Cycles」を改造した開発者18nelliは、機材を開けて部品を記録し、Claude Codeを使ってUSB経由の6トラック音声出力を実装しました。その後、改造は複数の参加者が機能を加えるコミュニティープロジェクトへ発展し、音源の追加や、別機種「Model:Samples」のように動かす機能も生まれています。

Model:Cyclesに加わった機能

Modded Cyclesは、Elektronの「Model:Cycles」向けに複数の改造をまとめたファームウェアです。サンプル再生、リサンプリング、TB-303風のベース音源、追加の低周波発振器、アルペジエーター、ステップ録音などを搭載しています。

USBオーディオは、ステレオミックスの出力と、6トラックを個別に送る出力を切り替えられます。設定は機材上で変更でき、再書き込みなしで切り替えられます。選択した設定は電源を切った後も保持されます。

開発者は、Modded Cycles全体を実験段階と位置付けています。多くの機能は個別に実機で試されていますが、ファームウェア全体の動作確認は途上で、Model-TGなど一部の機能も実験扱いです。開発者は機能追加をいったん抑え、既存コードの整理と不具合修正を進める予定です。

利便性と書き込み時のリスク

カスタムファームウェアは、メーカーの公式更新が止まった機材や価格を抑えた製品にも機能を追加できますが、メーカー版と同等の検証を経ているとは限りません。書き込みに失敗すると機材が起動しなくなることがあり、後から公式OSを導入した際に問題が起きる可能性もあります。

Elektronは公式フォーラムでカスタムファームウェアへのリンクを禁止し、改造によって機材が使えなくなる可能性や、後の公式OSとの問題を警告しました。一方、M-VaveはFM-1向けの公式オープンソース環境を用意しており、メーカーによって対応が異なっています。

Modded Cyclesには公式ファームウェアへ戻す方法が案内されています。追加機能を使う機材は、作業前に設定を元の音源へ戻す必要があります。