
Torネットワークの出口リレー333台が侵害され、2026年10月2日から5日にかけて、SSH接続の転送とメール通信の選別に使われました。Torを経由しても、出口リレーから先の通信がすべて暗号化されるわけではありません。今回の攻撃では、SSHの認証情報や暗号化されていないメールが狙われました。攻撃者はSSHの警告を無視した利用者のパスワードを盗み、接続先での操作を観察したうえ、サーバーにバックドアを仕込もうとしていました。
出口リレー333台が通信を転送
Torでは、利用者の通信は複数のリレーを経由し、最後の出口リレーから接続先のサーバーへ送られます。リレー間の通信は暗号化されますが、出口リレーは通信を宛先へ中継するため、宛先との間で暗号化されていないデータを扱います。HTTPSのように接続先まで暗号化された通信では、出口リレーを通過する部分も暗号化された状態です。
攻撃者は333台の出口リレーを操作し、Torの出口リレー約3,000台のうち約1割を攻撃に使いました。そのうちSSH接続は、攻撃者が管理する12台の中継サーバーへ転送されました。利用者には接続先のSSHホスト鍵が変わったという警告が表示され、警告を無視してログインすると、パスワードを盗まれ、入力したコマンドを見られる仕組みでした。
暗号化メール用ポートを遮断
攻撃者は出口リレーの設定を変え、暗号化メールの受信に使われる25、465、587、993、995番ポートを遮断する一方、暗号化されていないメールのポートは通過させました。接続先のメールサービスが通信を暗号化されていない方式へ切り替えれば、攻撃者がメール本文を取得できる状態になります。
Torリレーは利用者の通信経路を中継し、出口リレーは接続先へ通信を送り出します。そのため、出口リレーの侵害は、Tor内部の暗号化を破らなくても、出口以降で暗号化されていない通信を狙う攻撃につながります。HTTPSのように接続先まで暗号化された通信は、出口リレーから内容を読まれません。
EburyでSSHサーバーにも侵入
攻撃者は8月、再利用された有効なパスワードで管理サーバーに入り、Linux向けバックドア「Ebury」を導入しました。EburyはOpenSSHのクライアントやサーバーの動作を変え、認証情報を盗む機能を持つマルウェアです。侵害された管理サーバーを経由して、出口リレーを運用する別のサーバーにも同じバックドアが導入されました。
Torボランティアは、SSH接続を検査するスクリプトで約3,000台の出口リレーを調べ、偽のホスト鍵を返すリレーや、攻撃者の中継サーバーへ接続を転送するリレーを特定しました。また、ハニーポットと呼ばれる観測用サーバーを使い、攻撃者がログインを試みてEburyを導入しようとする動きを調べました。Torプロジェクトのネットワーク健全性チームは10月4日に運用者へ連絡し、対象リレーはBadExitに指定され、10月5日までに感染サーバーが停止されました。
EburyはSSHサーバーやクライアントの動作を改変して認証情報を収集するほか、感染したサーバーへの追加マルウェア導入にも使われてきました。ESETは2024年の調査で、EburyがLinux、FreeBSD、OpenBSDのサーバー約40万台に導入され、2023年末時点でも10万台以上が感染状態だったと報告しました。同調査では、侵入後に得たパスワードや鍵を関連システムへのログインに再利用する手法や、ホスティング事業者の侵害を通じて複数サーバーへ感染を広げた事例も確認されています。
侵害を広げた経路と対策
Torボランティアが調べた2台のサーバーでは、管理サーバーのSSHパスワード認証が有効で、同じパスワードがsudoとバックアップの保護にも使われていました。パスワードは両サーバー上のスクリプトに平文で保存され、管理サーバーには運用者のSSH秘密鍵やリレーの鍵のコピーを含む暗号化バックアップも置かれていました。攻撃者は8月28日に管理サーバーへログインし、その後、別の出口リレー用サーバーへ侵入してEburyを導入しました。
この運用者の調査では、侵害された出口リレー2台で、暗号化メール用ポートを遮断する設定が約52時間有効になり、そのリレーは1日あたり約3.4TiBの通信を扱っていました。ESETの過去の調査では、Eburyの運用者が侵害済みシステムで得た認証情報を別のシステムへの侵入に使う手法や、ホスティング事業者を通じて感染を拡大させた事例が記録されています。今回の攻撃でも、管理サーバーから別のサーバーへアクセスが広がり、SSH接続を介して追加感染を試みる流れが確認されました。
Torの調査担当者は、パスワード認証を無効にしてSSH鍵を使うことを対策として挙げました。また、Torボランティアは、メールアカウントで暗号化された通信だけを受け入れ、暗号化されていないポートを拒否する設定を推奨しています。これらは、サーバーへの認証情報の侵害と、メール通信が暗号化されない場合の情報取得に、それぞれ対処するものです。







