
トヨタ自動車は10月2日、漫画「頭文字D」と共同企画した特別動画を公開しました。車内のコップの水をこぼさずに高速走行する作中の描写を、開発車両の評価を担うドライバーがテストコースで再現する試みです。急カーブや加減速が続く条件で、アクセル、ブレーキ、ハンドルの操作を滑らかにつなぐ運転技術が使われました。
豆腐を崩さず運ぶ場面を実車で再現
「頭文字D」は、しげの秀一による漫画です。主人公の藤原拓海は、客に届ける豆腐を崩さないため、車内に置いたコップの水をこぼさずに走ります。トヨタは、この描写を実車とドライバーで再現できるか検証しました。
企画は、10月2日の「豆腐の日」に合わせたものです。「とう(10)ふ(2)」の語呂合わせにちなみ、トヨタの公式SNSであるX、Instagram、Facebook、TikTok、YouTubeで動画を公開しました。
撮影には、急カーブが多いトヨタのテストコースを使いました。急加速、急減速、急なハンドル操作を繰り返すコースで、ドライバーは車両の動きを細かく制御しながら挑戦。本番前には、担当ドライバーが「こぼしてしまうかも」と不安を口にしています。
水の揺れに関わる加速度と操作の滑らかさ
今回の挑戦でトヨタが鍵として挙げたのは、アクセル、ブレーキ、ハンドルの操作を滑らかにつなぐことです。加速や減速、旋回を伴うコースで、コップの水をこぼさずに走るための技術と位置づけています。
旋回中の車内では、水がカーブの外側へ押し出されます。水面の揺れ方に関わるのは、加速度、つまり速度や進行方向の変化の大きさと、ハンドル操作の滑らかさです。急激に力がかかるほど水はこぼれやすく、力のかかり方が一定で滑らかであれば、こぼれにくい状態を保ちやすくなります。
運転操作で車両の動きを制御する今回の挑戦に対し、載せた物を支える床の角度を変える技術もあります。アイシン精機グループは、2021年の技術展示会「CES 2021」で、振り子式加速度低減技術「PARS(パース)」を世界初披露しました。
PARSは、加減速や旋回によって車にかかる力をセンサーで捉え、それに合わせて床の角度を調整する仕組みです。振り子の原理を基本に、傾きや揺れ戻しをモーターで微調整し、載せた物を安定させます。
挑戦を担当した評価ドライバーの仕事
運転を担当したのは、トヨタの「凄腕技能養成部」に所属する評価ドライバーです。同部は、開発中の車を走らせて評価する専門組織で、数値だけでなく、人が運転して感じる乗り味も車づくりに生かしています。
凄腕技能養成部は、2015年4月に発足しました。部を統括する矢吹久主査によると、車両評価を担っていたFDチームとNチームが、ニュルブルクリンク24時間レースに参戦する車両を共同で評価していたことを背景に、一つの組織へ統合されました。同部は、車両評価と技能者育成を担っています。
評価ドライバーの仕事には、車両の不具合を見つけ、その原因を指摘することも含まれます。乗用車や商用車を担当する大阪晃弘氏は、限界領域で車を走らせ、部品を交換して改良する経験を重ねることで、感じ取った現象の原因を特定できるようになると説明しています。
大阪氏は、ボディーのスポット溶接が一つ増えた際の変化なども、評価ドライバーが感知する例として挙げています。こうした人の感覚を使う評価は「官能評価」と呼ばれ、開発車両の乗り味を整える仕事につながっています。
トヨタは、評価ドライバーの育成で運転技能に加えて精神面も重視しています。安定した精神状態で車を評価することや、開発車両を危険と判断した場合には走行評価を実施しないという安全性の判断も、ドライバーの役割です。










