NVIDIAのスタートアップ支援プログラム「NVIDIA Inception」に参加する4社が、乳がんの画像撮影、リスク評価、治療選択を支えるAIを開発・提供しています。自動超音波検査や病理画像による再発リスク予測など、検診から診断後の治療までを対象とし、臨床で使われている製品と研究段階の機能が含まれます。

片側約2分の自動超音波撮影、3,200人の臨床研究も進行

iSono Healthの「ATUSA」は、乳房に装着して撮影する自動3次元超音波システムです。米国食品医薬品局(FDA)の販売許可を取得しており、片側の乳房を約2分で撮影します。従来の手持ち式超音波検査では最大45分かかるのに対し、乳房全体を一定の方法で撮影します。

AIの学習には、乳房全体を撮影した数千件の検査と、150万枚を超える超音波画像が使われました。iSono Healthは、手持ち式の2次元超音波検査より感度が28%高いとしています。感度は、がんなど検出対象がある場合に、それを捉える割合を指します。

ATUSAは、米国のカリフォルニア、テキサス、ジョージア、テネシー各州とワシントンD.C.の提携クリニックで提供されています。iSono Healthは、病変の検出、3次元画像での領域分割、病変の分類に対応するAI機能も開発しています。

次に計画しているのは、3次元超音波に加え、乳房のX線検査であるマンモグラフィ、MRI、臨床情報を組み合わせた診断支援への拡張です。性能をさらに検証するため、カリフォルニア大学デービス校とヴァンダービルト大学医療センターを主要拠点とする、3,200人対象の多施設臨床研究が進んでいます。

超音波の追加は検出を増やす一方、再検査も増加

ATUSAが扱う超音波検査には、マンモグラフィを補う役割があります。乳房内の乳腺などの組織が多い高濃度乳房では、組織が腫瘍を隠し、マンモグラフィの感度が低下します。補助検診を扱うレビューでも、超音波は広く利用されている追加検査で、マンモグラフィとの併用でがんの検出率を高める方法と位置づけられています。

ドイツの検診制度に組み込まれた前向きの非無作為化比較研究では、乳房濃度が上位15〜20%の女性を対象に、マンモグラフィと手持ち式超音波の併用群25,341人、マンモグラフィ単独群38,529人を比較しました。がんの検出率は、併用群で1,000人当たり10.7件、単独群で7.2件で、超音波の追加により3.5件増えました。

一方、再検査率は6.6%対5.4%、組織を採取して調べる生検の実施率は3.2%対1.5%と、いずれも併用群で高くなりました。超音波の追加は、がんではないのに疑わしい所見が出る偽陽性も増やしており、長期的な臨床上の利益を評価するには追跡データが必要とされています。この研究で使われたのは手持ち式超音波で、ATUSAの臨床研究とは別の検証です。

乳房濃度の測定と長期リスクの推定を支援

Whiterabbit.aiの「WRDensity」は、マンモグラフィから乳房濃度を自動評価するソフトウェアです。FDAの販売許可を取得し、数十万人の診療に使われています。Whiterabbit.aiは、乳がんを発症する長期的なリスクを推定する臨床判断支援ソフトウェア「WRRisk」も開発しています。

Whiterabbit.aiは、放射線科医によるがんの検出を支援するとともに、乳がん陰性のマンモグラフィの選別を自動化する次世代AIを研究しています。目標は、読影の負担軽減、結果通知の迅速化、不要な再検査の削減です。

AIモデルは、セントルイスのワシントン大学に設置したNVIDIAのGPU群と、追加のクラウド計算資源で学習します。GPUは多数の計算を並列に処理する半導体で、学習済みモデルによる画像解析はクリニック内のGPUで行います。

病理画像から術前の反応と術後5年の再発リスクを予測

Ataraxis AIは、通常の診療で得られる病理標本のデジタル画像と臨床情報を使い、治療への反応や再発リスクを予測しています。術前の化学療法で腫瘍が縮小する可能性を予測するモデルと、術後5年間の再発リスクおよび追加の化学療法による利益を推定するモデルがあります。

両モデルは、10を超える医療機関と複数の臨床試験で検証され、臨床で使用されています。計算処理には、施設内、外部データセンター、クラウドのNVIDIA GPUを利用しています。

こうした治療判断では、既存の多遺伝子検査も使われます。多遺伝子検査は、腫瘍組織に含まれる複数の遺伝子の発現、つまり遺伝子情報がRNAとして読み出される量のパターンを調べ、再発リスクや治療による利益を評価する検査です。Ataraxis AIが病理画像と臨床情報を解析するのに対し、多遺伝子検査は遺伝子の発現を測ります。

多遺伝子検査の用途は、検査ごとに異なります。例えば「Oncotype DX」は、ホルモン受容体陽性かつHER2陰性の早期浸潤性乳がんで、ホルモンの作用を抑える内分泌療法に化学療法を加える利益の予測に使われます。適用には、閉経の有無やリンパ節転移の状態などの条件があり、年齢、腫瘍の大きさ、組織学的な特徴なども予後評価の基礎です。

MRIなどを統合して腫瘍を3次元で可視化

SimBioSysは、乳房の腫瘍、静脈、その他の軟部組織の3次元モデルを作成し、手術や治療計画を支えるAI技術を開発しています。乳房のMRIによる3次元データ、腫瘍の病理情報、臨床データを使って、再発リスクを推定するツールも構築しています。

SimBioSysのCEOのStacey Stevens氏は、10月1日に米アリゾナ州フェニックスで開かれた討論会で、画像検査、病理結果、必要に応じた遺伝子検査などをAIで統合する取り組みを説明しました。画像技術はクラウド上のNVIDIA GPUで動作し、医療画像向けの開発基盤「MONAI」などを使っています。

FDAの販売許可と研究段階の機能を区別

ATUSAとWRDensityについて使われているFDAの「cleared」は、医療機器の販売許可を表す用語です。医療機器の審査には、既存機器との実質的な同等性を評価する510(k)経路と、高リスク機器を対象とする市販前承認(PMA)などがあり、「cleared」と「approved」は異なる審査経路に関わる表現です。510(k)では、比較対象となる既存機器の使用目的と機能が審査の基準になります。

IntuitionLabsは、規制上の許可と患者に対する臨床上の利益の証明を区別しています。NVIDIAも、今回取り上げた技術の一部は研究段階にあり、商用利用についてFDAの承認を得ていないと明記しています。