
灯台を刻んだ指輪が水中で見つかる
エジプト・アレクサンドリア沖の地中海で、ファロスの灯台を描いた青銅製の印章指輪が見つかりました。発見場所は、現在は水没しているアンティロドス島の宮殿跡です。灯台の図柄を刻んだ印章指輪が見つかったのは、今回が初めてとされています。
発見したのは、欧州水中考古学研究所(IEASM)とエジプト観光・考古省の合同チームです。指輪は宮殿跡の水中遺構から出土しました。刻まれた図柄は摩耗していますが、ロンドン大学の美術史・考古学名誉教授ドリス・ベーレンス=アブセイフ氏は、アレクサンドリアの灯台を表している可能性が高いと述べています。
灯台の図柄は、2世紀の硬貨に見られる描写と似ています。ベーレンス=アブセイフ氏によると、灯台を同様に描いたアレクサンドリアの硬貨は数千枚あり、プトレマイオス朝期またはローマ時代のものです。今回の発見は、硬貨に見られる図柄が印章にも使われていたことを示しています。
印章指輪と宮殿跡の関係
印章指輪は、持ち主が柔らかい素材に押しつけて印を残すために使われました。素材には粘土やワックスなどがあり、刻印を封印として利用できます。今回の指輪も、そうした用途に使われた可能性があります。
IEASMのフランク・ゴディオ所長は、指輪が「権力の中心だった」アンティロドス島の宮殿跡から出土した点を重視しています。IEASMは、指輪の発見場所から、宮殿が灯台に関係する行政機能を担っていた可能性を指摘しました。
アンティロドス島は、古代アレクサンドリアの東港にあった島で、プトレマイオス朝の宮殿が置かれていました。同島は古代の王室港「ポルトゥス・マグヌス」の一部で、ファロス島もその港に含まれていました。この位置関係が、宮殿跡と灯台を結びつけるIEASMの見方の背景にあります。
船を導いたファロスの灯台
ファロスの灯台は、アレクサンドリア港のファロス島に建てられた古代の灯台です。ブリタニカによると、建設は紀元前280年ごろに始まり、プトレマイオス2世の治世に完成しました。エジプト沿岸は低く、浅瀬や岩礁があったため、港へ向かう船には遠くから見える目印が必要でした。
灯台は、下から四角形、八角形、円筒形の三段構造だったとされています。各部は上に向かって少しずつ細くなり、広い螺旋状の坂道が最上部まで続いていました。高い位置から周囲を見渡せる構造に、上部へ物資を運ぶ通路が組み合わさっていました。
夜間は最上部で火を燃やし、船の目印にしました。S0によると、灯台には像があり、頂上の像が油灯を持っていた可能性もありますが、その像がゼウスだったかどうかは断定されていません。研究者は、今回の指輪の刻印に灯台の頂部の煙のような形が見えるとしています。
硬貨の図柄との共通点
指輪の図柄と硬貨の描写の類似は、灯台の姿を考える手がかりになります。S0で紹介された研究者らは、指輪に刻まれた灯台の頂部に、油灯から立ち上る煙が表現されている可能性を指摘しました。刻印が摩耗しているため、細部の読み取りには限界があり、これは図柄の解釈の一つです。
カリフォルニア大学アーバイン校のマーガレット・マイルズ名誉教授は、アレクサンドリアの商人がこの指輪を使い、自身の所在地を示した可能性を挙げています。灯台は都市の象徴として知られていたことから、図柄がアレクサンドリアとの結びつきを表したという見方です。指輪の持ち主や実際の使用者は特定されていません。
アレクサンドリア沖では、近年、灯台に関係する大型の石材22個も発見されています。こうした調査成果は、灯台の姿をデジタルで再構成する研究にも関係しています。印章指輪の発見は、灯台の図像が硬貨だけでなく、個人が使う品にも刻まれていた可能性を示しています。










