
NASAの火星探査車キュリオシティは、ゲディズ・バリスと呼ばれる水路状の地形で、火星探査では初めて純粋な硫黄を確認しました。硫黄を火星の建設材料に使う研究では、ノースウェスタン大学のLin Wan氏らが、模擬火星土壌と溶かした硫黄を混ぜた材料を開発し、50MPaを超える圧縮強度を得ています。

岩が割れて現れた黄色い結晶
キュリオシティが硫黄を見つけたのは、シャープ山の麓にあるゲディズ・バリスです。キュリオシティが白っぽい石の一つを踏んで砕いたところ、内部から黄色い結晶が現れ、搭載機器による調査で純粋な硫黄と判明しました。
NASAの火星周回探査機マーズ・リコネッサンス・オービターは、この一帯を明るい色の地形として捉えていました。しかし、硫黄の石はマーズ・リコネッサンス・オービターの高解像度カメラHiRISEで見分けるには小さく、キュリオシティが到達して初めて、その特徴が明らかになりました。
NASAの研究チームは、硫黄の石が広がる場所を上方や側面から観察し、硫黄に混じる物質など、形成過程の手掛かりを調べました。2024年10月11日にはこの石の一帯を撮影し、11月2日にはゲディズ・バリスから西へ向かう途中で周囲のパノラマを撮影しています。
水を使わず、硫黄で土壌を固める建設材料
硫黄コンクリートは、砂や砕いた岩石などの骨材を硫黄で結び付ける複合材料です。通常のコンクリートに使うセメントと水を含まず、加熱して溶かした硫黄と骨材を混ぜ、冷却して固めます。Wan氏らは、火星の乾燥した環境で使う建設材料として、この仕組みを模擬火星土壌に適用しました。
研究チームは硫黄の割合を変えて配合を調べ、曲げ試験、圧縮試験、割裂試験によって、強度の変化やばらつき、壊れ方を評価しました。開発した最適配合は、周囲から拘束しない条件での圧縮試験で50MPaを超え、通常の砂を使った硫黄コンクリートの約2倍の強度を示しました。
また、研究チームは、土壌粒子の粒度分布が最終的な強度に大きく関わることを示しました。材料の応答を計算する「格子離散粒子モデル(LDPM)」も用い、異なる荷重条件での挙動をシミュレーションしています。
硫黄コンクリートは、冷却によっておよそ24時間以内に高い機械的強度に達します。温度によって状態が変わる熱可塑性材料でもあり、再加熱して溶かすことで、形を変えて再利用できます。
実験の圧縮強度と建物の設計値は役割が異なる
圧縮強度は、材料を押しつぶす方向の力に対する強さを表し、破壊時の荷重を断面積で割って求めます。一方、コンクリート建築の「設計基準強度(Fc)」は、構造設計の前提として要求する圧縮強度の最低値です。
建物の品質管理では、構造上の設計基準強度と、長期使用のための耐久設計基準強度を分けて扱い、その大きい方を品質基準強度とします。さらに、生コンクリートの発注に用いる呼び強度には、温度による強度発現の違いを考慮した補正が加わります。Wan氏らの50MPa超という数値は、模擬火星土壌を使った配合の圧縮試験結果です。
硫黄コンクリートには、温度や湿潤環境に関わる制約もあります。Wan氏らは、長期的な居住施設では耐火性が課題になり得るとしています。また、Swamy氏とJurjees氏による研究では、一部の添加剤を使った鉄筋入り硫黄コンクリートの梁で、湿潤環境における軟化や強度低下、鉄筋の腐食が報告されています。
次の探査先は幅10〜20キロメートルの網状地形
キュリオシティは硫黄の観察を終えた後、ゲディズ・バリスの西側を進み、次の探査対象である「ボックスワーク」へ向かい始めました。NASAの2024年11月の計画では、移動に数カ月をかける予定でした。
ボックスワークは、地表に網の目のような模様をつくる地形で、シャープ山では幅10〜20キロメートルの範囲に広がっています。NASAの研究チームは、水が運んだ鉱物が岩の割れ目に沈着して固まり、周囲の岩が侵食された後に残ったものと考えています。
キュリオシティの探査目的は、数十億年前の火星に微生物の生命を支え得る条件があったかを調べることです。ボックスワークの調査では、火星から水が失われつつあった時期に、地下で形成された鉱物や水の働きを探ります。










