
老化に伴って増える「ゾンビ細胞」は、炎症を促す物質を出し続け、組織に残ることがあります。2026年のマウス研究では、免疫細胞のEP2受容体を阻害すると、老化した好中球の除去が回復し、複数の臓器や身体機能の老化指標が改善しました。老化細胞を薬で直接殺す方法とは異なり、細胞を片付ける免疫機能を回復させるアプローチです。
老化細胞を片付ける免疫細胞の働き
細胞の一部は、DNA損傷などをきっかけに分裂を止めても、すぐには死なずに残ります。こうした老化細胞は「ゾンビ細胞」とも呼ばれ、炎症を促す物質を放出します。老化細胞の蓄積は、炎症や臓器機能の低下と関連しています。
通常、マクロファージという免疫細胞は、死んだ細胞や傷んだ細胞を取り込み、組織から除去します。加齢とともにこの働きが弱まり、老化細胞が残りやすくなると考えられています。老化細胞を直接死に至らせる薬は「セノリティクス」と呼ばれます。
2026年の研究では、寿命の短い免疫細胞である好中球に注目しました。老化したマウスでは、老化の特徴を持つ好中球が複数の臓器で増え、マクロファージによる除去も低下していました。残った好中球は、組織を傷つける酵素や細胞外トラップを放出し、周囲の細胞にもストレスを与えることが示されました。
EP2を抑えると好中球の除去が回復
EP2は、炎症や細胞間の情報伝達に関わる脂質分子プロスタグランジンE2(PGE2)の受容体です。2021年のマウス研究では、加齢したマクロファージやミクログリアでPGE2によるEP2シグナルが高まり、ブドウ糖をエネルギーとして使う過程やミトコンドリアの呼吸が抑えられていました。
同研究では、加齢したマウスで骨髄系免疫細胞のEP2シグナルを阻害すると、細胞のエネルギー代謝や炎症状態が改善し、空間記憶も回復しました。ミクログリアは、脳にあるマクロファージに似た免疫細胞です。2026年の研究は、好中球を含む老化細胞の除去という組織の維持機能に、EP2がどう関わるかを調べました。
2026年の研究では、老化マウスの組織にいるマクロファージでEP2を遺伝的に減らすと、ミトコンドリア機能と免疫の恒常性が保たれました。認知機能の低下、筋肉量の減少、虚弱、脂肪の蓄積、心機能の低下も、若い状態に近づきました。薬理学的にEP2を阻害した場合も、老化好中球の除去が回復しました。
セノリティクスとヒトでの証拠
セノリティクスは老化細胞を直接減らす方法ですが、ヒトでの臨床試験は小規模です。2026年9月時点で、加齢への治療として承認されたセノリティクスはなく、偽薬や標準治療と比べた3試験では、主要な健康指標で比較対象を上回りませんでした。
ダサチニブとケルセチンの併用では、肺線維症の成人14人を対象にした非比較試験で、3週間後の6分間歩行距離が21.5メートル伸びました。一方、12人を対象に偽薬と比べた別の試験では、身体機能に明確な差がありませんでした。糖尿病性腎疾患の成人9人では、投与後に脂肪組織の老化細胞マーカーが減りましたが、これは健康状態の改善を示す結果とは異なります。
EP2阻害による老化治療を調べるヒト臨床試験は、まだ初期段階です。EP2を阻害する薬はがん治療として試験されていますが、加齢への応用も初期段階です。2026年のマウス研究では、ヒトの肝臓や心臓のデータにも、加齢した組織でEP2の増加や老化好中球の蓄積が見られました。ただし、これはヒトで治療効果を確かめた臨床試験の結果ではありません。
治療へ進むうえで残る課題
EP2阻害とセノリティクスは、狙う対象が異なります。前者はマクロファージの機能を回復させて老化細胞の除去を促し、後者は老化細胞そのものを死に至らせます。マウスや細胞で得られた結果は、人の健康改善を示すものではありません。
EP2阻害の研究では、実験用マウスの遺伝的背景や飼育環境が揃っている一方、人では個人差や生活環境の違いが結果に影響し得ると指摘されています。また、過去に高齢者のマクロファージ機能を改善したp38阻害薬ロスマピモドは、後続試験で肝臓の問題が生じ、長期使用には適さないとされました。免疫細胞の働きを変える治療では、効果と安全性の検証が必要です。











