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出典: Science

米イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の研究チームは、エルビウムを加えた薄膜ニオブ酸リチウム導波路で、量子情報を保ちながら複数の光子を同時に1マイクロ秒超保存するチップ型メモリーを実証しました。光子を一時的に待機させる機能は、量子計算や通信で処理のタイミングを合わせるために必要です。

チップ上で光子を1マイクロ秒超保存

光子は量子情報を運びますが、処理装置で別の操作が終わるまで待機させる必要があります。今回の装置は、光を導く薄膜ニオブ酸リチウムのナノ導波路にエルビウム原子を加え、光子をチップ上に一時保存します。

研究チームは、量子情報を高い忠実度で保ちながら、複数の光子を同時に保存できることを示しました。保存時間は1マイクロ秒を超えています。研究を率いたエリザベス・ゴールドシュミット氏は、装置を商業規模で製造できる可能性を挙げています。

光子がチップ上の約1センチを通過する時間は、数兆分の数秒です。1マイクロ秒超の保存は、光子を長い光路に通して遅らせる方法とは異なり、原子の集団を利用して光を一時的に保持します。

周波数のくし形が決める保存時間

装置では、波長に応じて光を吸収するエルビウム原子の状態を、調整可能なレーザーで周期的な周波数パターンに整えます。この等間隔のピーク列は「原子周波数コム」と呼ばれ、入ってきた光子を一時的に受け止めます。

別のエルビウム添加ニオブ酸リチウム導波路の研究では、原子周波数コムを、周波数ごとの光吸収を等間隔の細いピークに並べた構造としています。光学的な励起で原子の一部を長寿命の準位へ移す「スペクトルホールバーニング」により、この周波数パターンを作ります。その研究では、光子エコー型量子メモリーに用いるコムを作り、数秒まで持続する構造を確認しました。

原子周波数コムでは、ピーク間隔が光の再放出までの時間を決めます。

量子リピーターでは待機がネットワーク運用を支える

量子リピーターは、長距離通信路を短い区間に分け、隣り合うノード間で作った量子もつれを順につないでいく方式です。量子もつれは、離れた量子系の状態が相関した状態を指します。

各区間で接続の成功を確認する間、量子メモリーは作成済みの量子もつれを保存します。成功が確認されると、保存した状態を読み出して次の区間と接続し、通信距離を伸ばします。そのため、光子や量子状態の一時保存は、複数区間を順に運用するリピーター構成を支えます。

光ファイバーでは光子が失われ、距離が伸びるほど伝送率が低下します。また、未知の量子状態を単純に増幅して損失を補うことはできません。リピーターは区間ごとの接続とメモリーを組み合わせ、直接伝送とは異なる方法で長距離の量子通信を目指します。

実用化には効率と保存時間の改善が必要

今回の研究チームは、実用的な装置に向けて、保存した光子を取り出す効率の向上と、保存時間の延長が必要だとしています。今後は周波数コムの改善や、ノイズの影響を受けにくいエルビウム同位体の検討を進める予定です。

別のエルビウム添加導波路研究では、背景吸収がメモリー効率を制限し、見積もり効率は0.1%でした。同研究は、この背景吸収が二準位系とエルビウムスピンの結合による可能性を挙げ、結晶成長とコム形成の改善が必要だとしています。

ゴールドシュミット氏の研究室は、原子集団の周波数を調整する手法を、量子フォトニクス向けのほかの装置にも応用する計画です。チームは、今回のメモリーを集積フォトニクス基盤で進める研究の一部と位置付けています。