
ウクライナでは、ロシアの攻撃を監視・予測するために集めた実戦データが、軍事AIの開発にも使われています。戦場のデータは希少な訓練データとなる一方、民間企業が利用することで、国家がデータを管理し、技術への依存を抑える方法が課題になっています。
戦場のデータを統合し、判断に使う
ウクライナは、4年にわたる戦闘で動画やセンサーの情報を収集してきました。Palantir(パランティア)の製品は、こうした既存のデータを統合・分析し、ロシアの攻撃への対応に使われています。
同社のソフトウェアは、ミサイルやレーダー、自動船舶識別システム、公開情報などを一つの画面にまとめ、戦場の状況把握に使われます。複数の情報源を統合し、パターンの認識や予測、部隊の判断を支援します。
1月には、ウクライナ国防省と連携する専用基盤「Brave1 Dataroom」が始まりました。戦場データを軍事用途のAI訓練に使う取り組みです。
実戦データが訓練に必要な理由
軍事AIの学習では、対象物の種類だけでなく、撮影位置やセンサーの種類、画像の状態も重要になります。カナダの国防研究開発機関は、軍事車両などの検出には、地上・上空の視点や可視光・赤外線といった条件が用途に合うデータが必要だとしています。
同機関の研究では、一般に公開された画像データだけでは軍事センサーや運用条件に合わない場合があり、独自に集めたセンサーデータに対象物のラベルを付けて補っています。動画では前のフレームのラベルを次のフレームへ引き継ぐ手法を使い、4週間で12万枚を超える画像に約4万個の物体枠を付けました。
実戦データには、現実の環境で撮影された画像やセンサー情報が含まれ、希少な学習材料になります。Palantirの顧客データの扱いをめぐり、ウクライナの元軍曹ヴァレリー・マルクス氏は、国が「血を流して」得たデータから他社が資本や影響力を得る可能性を懸念しました。
シミュレーション画像で補う方法
軍事データは機密性が高く、取得費用もかかるうえ、脅威の特徴も変化するため、訓練用データの確保が難しいとされています。オランダ応用科学研究機構(TNO)などの研究者は、実測データを補う方法として、シミュレーションや生成AIによる画像合成を検討しています。
生成AIを使う方法には、用途に合わせた画像全体の生成、既存画像への物体の追加、画像の条件やセンサー形式の変換があります。実画像が少ない場合、合成データを加えることで、後続の画像分析モデルの性能が改善した研究例もあります。
一方、軍事分野の情報を十分に学習していない汎用モデルは、軍事環境の画像を適切な品質や多様性で生成できない可能性があります。研究者らは、幅広い用途で実運用できるかどうかについて、さらなる検証が必要だとしています。
英国でもウクライナで試された技術を導入
英国国防省は2025年9月、Palantirとの戦略的パートナーシップを発表しました。英国軍と同社は、ウクライナの戦場ですでに試されたAI技術を使い、意思決定や軍事計画、標的選定を速める能力の開発を進めるとしています。
英国政府は、今後5年間に最大7億5,000万ポンド(約1,600億円)相当となる可能性のある国防分野の案件を見込み、Palantirは英国へ最大15億ポンド(約3,200億円)を投資する計画を示しました。同社はロンドンを欧州の防衛事業の拠点とし、英国で最大200人、関連する防衛技術分野で最大150人を雇用する方針です。
英国の計画では、複数の情報源を組み合わせ、指揮官が標的への攻撃を検討する時間を短縮する「キルチェーン」の一部を支援します。英国国防省は、データを主権的に管理し、必要な場所で利用できるようにすると説明しています。
データ管理と企業への依存
ウクライナの防衛関係者からは、戦場データを非公開の条件で民間企業と共有することへの懸念が出ています。Palantirは、顧客がデータを所有・管理し、同社が自社の目的で保持・利用することはないと説明しています。
ただし、データを保有しなくても、企業は提供されたデータを使って製品を運用できると、クイーン・メアリー大学ロンドン校の研究者エルケ・シュワルツ氏は指摘しています。ウクライナの防衛企業Fire Pointのデニス・シュティルレルマン氏も、戦闘データは国家の戦略資産だとして、Palantirとロシアのヤンデックス共同創業者が立ち上げた企業との提携に懸念を示しました。
各国政府が軍事や公共サービスの基盤を民間企業に頼るほど、供給停止や契約変更が運用に影響する可能性があります。フランスは戦略的依存を避けるため、情報機関がPalantir製品の利用をやめる方針を示し、ドイツ軍も同社製品を使わないと表明しました。










