
ケタミン治療とMDMA補助療法の後、脳の可塑性や免疫に関わる遺伝子群でDNAメチル化の変化が確認されました。分析では、血液や唾液で測定した分子変化を調べました。
血液と唾液から治療前後の変化を分析
研究チームは、脳の健康や神経細胞間の信号伝達に関連する約2,900遺伝子を対象に、治療前後のDNAメチル化を調べました。DNAメチル化は、遺伝子の読み取られやすさに影響する化学的な目印です。DNAの配列そのものは変わりません。
ケタミンの分析対象は、うつ病、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、または両方がある20人でした。参加者は2~3週間に6回の点滴を受け、研究チームは治療前と終了10日後の血液を比較しました。
MDMAの分析対象は、重度のPTSDがある16人で、フェーズ3臨床試験の参加者から選ばれました。約4週間おきに計3回、MDMAと心理療法を組み合わせて実施し、治療前と最終セッションから6~8週間後の唾液を比較しました。
遺伝子単位では両治療に共通する変化
個々のメチル化部位では、多数の検定を補正すると、統計的有意性を保つ変化はありませんでした。一方、各遺伝子内の部位をまとめた分析では、ケタミン後に405遺伝子、MDMA後に346遺伝子で有意な変化が見つかりました。
両群の変化は、シナプスの構造や組織化など、神経可塑性に関わる生物学的経路に集まりました。神経可塑性とは、脳が神経細胞間のつながりを作ったり組み替えたりする性質です。免疫やストレス応答に関わる経路も両群で確認されました。
個別の遺伝子では47個が両群に共通して変化しましたが、同じ方向に変化したのはその約4分の1でした。より広い経路の水準では重なりが大きく、PTSDとの関連が報告されているEFNA5では、両群ともメチル化の増加が確認されました。
作用する神経伝達系と治療成績の研究
ケタミンはグルタミン酸系のNMDA受容体を阻害し、GABA系やグルタミン酸系の神経伝達に影響します。MDMAは主にセロトニントランスポーターに作用してセロトニンのシグナルを強めるほか、ノルアドレナリンやドーパミンにも作用します。異なる神経伝達系に働く両薬で、神経可塑性に関わる経路の変化が観察されました。
ケタミンについて139件の研究を含むシステマティックレビューは、グルタミン酸、AMPA受容体、BDNF/TrkB、mTORなど、神経可塑性に関わる分子の変化と迅速な抗うつ効果との関連を報告しました。このレビューは、今回の研究で見つかった遺伝子変化の原因や効果を検証したものではありません。
MDMA補助療法については、PTSD患者286人を含む6件の無作為化比較試験をまとめたプレプリントのメタ分析で、対照条件と比べた症状の減少が報告されました。効果量はHedgesのgで-0.71、エビデンス全体の確実性評価は「低」でした。分析は今後の研究に応じて更新する計画です。
分子変化と症状改善は別に検証が必要
ケタミン群では血液、MDMA群では唾液を測定しました。末梢試料の測定結果と、遺伝子の働きの変化を調べた結果は異なります。
MDMAのフェーズ3試験では、重度PTSDの90人を対象に、MDMAと心理療法の組み合わせをプラセボと心理療法の組み合わせと比較しました。18週時点でPTSD症状の評価尺度CAPS-5はMDMA群で平均24.4点、プラセボ群で13.9点低下し、群間差が報告されました。この臨床試験とメチル化分析は、異なる参加者群を対象とした別々の研究です。











