
船員の報酬と航行リスクが上昇
ホルムズ海峡を通るタンカーの運賃や船員の危険手当が上昇し、湾岸地域から原油を運ぶ費用が膨らんでいます。タンカー船長が海峡を通過する場合、月給10万ドルに加えて1航海あたり5万ドルのボーナスを得る例があり、通常の月給約1万5,000ドルを大きく上回ります。
船員の通常賃金は月1,500ドル程度からとされ、海峡を通る航海では平常時の4〜6倍以上になる場合があります。船主は船員を確保するためにこうした手当を支払いますが、乗組員の中には乗船継続を望まず、船内に残るよう圧力を受ける人もいると報じられています。
国際海事機関によると、2月28日にイラン戦争が始まって以降、少なくとも93隻が攻撃を受け、船員24人が死亡しました。手当の上昇には、航行の危険が船員の報酬や船主の運航費に反映されています。
小型タンカーが往復し、大型船へ原油を移す
海峡周辺では、原油を積んだタンカーが海峡を通って沖合の待機船に合流し、船から船へ原油を移しています。積み替え先は超大型原油タンカー(VLCC)です。積み替え後、小型タンカーは海峡を戻り、VLCCは原油を積んで国際市場へ向かいます。
米軍が監視する運航では、船は海峡に入る前に合流地点へ向かい、約3〜4キロの間隔を空けて順に出発します。船舶の位置を知らせるトランスポンダーを切り、灯火を落として航行する例もあり、指定された経由地点を通って進捗を監視されます。
積み替えは指定海域で行われ、完了まで24〜40時間かかります。2026年5月初旬に始まった運航には少なくとも92隻が関わり、6月11日の衛星画像では2か所で17組が同時に積み替えていました。この方式は、海峡を通る船の数を抑えながら原油を大型船へ集め、湾岸からの輸出を続けるために使われています。
世界の石油輸送を支える海峡と迂回路
ホルムズ海峡はペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ航路です。米エネルギー情報局(EIA)によると、2024年には海峡を通る石油が日量平均2,000万バレルで、世界の石油消費量の約2割に相当しました。海峡が使いにくくなると、船舶の運航変更や輸送の遅れが広い地域の供給に影響します。
サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)には、海峡を避けて原油を運べるパイプラインがあります。EIAの推計では、供給が途絶えた場合に迂回へ使える余剰能力は、両国の設備を合わせて日量約260万バレルです。これは2024年に海峡を通過した石油の日量平均2,000万バレルの一部にとどまります。
サウジアラビアの東西パイプラインは日量500万バレルの能力を持ち、UAEのパイプラインはフジャイラの輸出港へつながっています。ただしEIAによると、設備は通常時から満容量で稼働しているわけではなく、日常運用で使う分は緊急時に回せる余力を減らします。そのため、陸上の迂回路だけでは海峡を通る輸送全体を置き換えられず、沖合での積み替えが輸出を続ける手段の一つになっています。
運賃と保険料が輸送費、製油所の採算に波及
ホルムズ海峡を渡る貨物の運賃は1日あたり130万ドルに達し、前年の1日2万〜5万ドルから上昇しました。タンカーの保険料も船価の6〜10%に達する場合があり、超大型タンカーでは最大2,000万ドルに相当します。こうした支出は、原油を生産地から買い手へ運ぶ費用に上乗せされます。
INGの推計では、世界の原油タンカーの平均収益は10月初旬に1日50万ドルを超え、2025年平均の10倍以上になりました。同社によると、サウジアラビアのラス・タヌラからロッテルダムへの原油輸送費は、2025年の1バレルあたり約2ドルから9月には35ドルを超えました。輸送費の上昇は原油の調達コストを押し上げ、燃料価格への圧力にもなり得ます。
製油所では、原油の仕入れや輸送にかかる費用と、精製後の燃料販売で得る収益の差が採算に関わります。スペインの製油会社レプソルの精製マージンは、第3四半期の1バレル36ドルから10月には15ドルへ低下したと、RBCのアナリストが示しました。INGは、輸送費と保険料の上昇が燃料価格を押し上げる要因となる一方、運賃が高止まりすれば製油所の採算も圧迫されると分析しています。










