ICEYE SAR satellite Netherlands
写真: Defensie Nederland / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons

ロシアの軍事衛星コスモス2612が、ウクライナへの情報提供に関わるICEYE-X36へ接近し、軌道上で近い距離を保つ動きを見せています。公開軌道データには、両衛星の軌道を合わせる一連の操作が記録されました。衛星の近接運用は観測や整備にも使われますが、相手側の同意を得ていない接近とされています。

軌道を合わせて近づいたコスモス2612

コスモス2612は、ロシアが2026年4月に打ち上げた軍事衛星群の一機です。ICEYE-X36は、フィンランド発祥の企業ICEYEの米国法人に登録された合成開口レーダー衛星で、雲や夜間の影響を受けにくい観測を行います。同社の衛星群は2022年以降、ウクライナに情報を提供してきましたが、X36自体が支援に使われているかは明らかになっていません。

コスモス2612は9月末から10月16日にかけ、ICEYE-X36に近づくための軌道変更を複数回行いました。オランダの衛星追跡者マルコ・ラングブルックは、公開軌道データを基に、両衛星の高度や軌道の形、周期をそろえる操作が行われたとしています。

衛星追跡では、公開された軌道要素から位置の変化を計算し、別の衛星との接近や軌道変更を捉えます。Orbital Radarは両衛星について、10キロ未満の接近を複数回記録しました。接近距離や時刻は、公開軌道要素を伝播させて最接近点を算出する方式で求めています。

近接運用は観測や整備にも使われる

別の衛星に接近する技術は、宇宙ごみの観測や除去を目指す軌道上サービスでも使われます。JAXAの商業デブリ除去実証では、アストロスケールの実証衛星ADRAS-Jが、姿勢制御や通信などの支援機能を持たないロケット上段を観測対象にしました。

ADRAS-Jは2024年7月、対象から約50メートルの距離を保ちながら周回し、複数の方向から連続画像を撮影しました。周回観測は、対象の周囲を相対軌道に沿って移動し、異なる角度から撮影する運用です。

この観測はJAXAが定める安全要求に従って実施されました。接近して観測する技術は、対象の構造を調べる用途にも、将来の捕獲や整備にも関係します。一方、コスモス2612の接近にはICEYE側の同意がないとされています。

同意と安全をめぐるルール

日本の宇宙交通管理タスクフォースが2022年に示した政策では、軌道上サービスの計画前に対象物の権利者から同意を得ることを、ルール化の対象に挙げています。また、接近やドッキングなど通常は避ける運用には、個別の安全対策を求めています。

同政策は、地球低軌道では軌道利用を調整する国際的な枠組みが事実上なく、衝突回避の手順も十分に整っていないと説明しています。国際的なルールの多くは、法的拘束力を持たないガイドラインなどを基に形成されているとしています。

ISO 24330:2022は、ランデブー・近接運用と軌道上サービスに関する原則や実務を定めています。同規格では、ランデブーを、計画した時刻と場所で複数の軌道操作を行い、宇宙物体同士を意図的に接近させる過程と定義しています。近接運用は、特定の目的のために別の物体の近くで計画した相対経路を維持する操作です。

接近の意図と今後の注目点

天文学者ジョナサン・マクダウェルは、所有者の承認を得ないまま、活動中の衛星同士が低軌道で接近した初の事例かもしれないと述べています。衛星追跡会社LeoLabsも、ICEYE-X36への接近は意図的に見えるとの見方を示し、継続監視が必要だとしています。

接近の目的は確定していません。米国の宇宙情報企業Slingshot Aerospaceの主任科学者ベリンダ・マーチャンドは、監視、将来の妨害への準備、能力の誇示といった可能性を挙げています。ロシア政府は、コスモス2612の搭載物や接近の目的について説明していません。

ロシアの衛星群では、コスモス2611と2613の軌道面もICEYE-X37に近づいており、追跡者グレッグ・ギリンジャーは11月6日と15日ごろの交差を予測しています。ICEYEのラファル・モドジェフスキCEOは、同社が5月以降に衛星を移動させた後、ロシア側の操作が続いたと述べています。