
指紋79点の分析で成人女性と子どもの痕跡
兵馬俑の指紋79点を分析した研究で、制作に成人男性だけでなく、成人女性や15歳未満の子どもも関わった可能性が示されました。推定では、指紋の45%が成人男性、32.7%が成人女性、22.3%が子どものものに当たります。
分析対象は、発掘坑1カ所にあった兵馬俑36体から見つかった指紋です。当初記録された91点のうち、同一人物が複数残したとみられる12点を除き、79点を分析しました。指紋は頭部や腕、鎧、手、襟、足などにあり、粘土を成形・接合する過程で残ったものとみられます。
79点の内訳は、湿った粘土に指が触れてできた表面の痕跡が73点、鎧の鋲や帯などの装飾を押し付けた際にできた浮き彫り状の痕跡が6点でした。後者は鎧の部品に限られていました。こうした指紋は制作工程の副産物で、作業者を直接記録するために付けられたものではありません。
隆線の間隔から年齢と性別を推定
研究チームは指紋の大きさではなく、隆線と呼ばれる指紋の線の平均間隔を使いました。人は成長に伴って隆線の間隔が広がり、骨格の成熟後は変化が小さくなります。成人では男性の間隔が女性よりやや広い傾向がある一方、子どもと成人女性など、異なる集団の値には重なりがあります。
そのため、研究チームは個々の指紋に年齢や性別を割り当てず、79点全体に占める各集団の割合を推定するアルゴリズムを用いました。指紋の大きさの集団差や、粘土が乾燥・焼成時に縮む影響も補正しています。ただし、基準に現代の欧州人のデータを用いたため、古代中国の人々への適用には不確かさが残ります。
指紋の隆線密度は、一定の面積に含まれる隆線の数を測る方法で、平均隆線幅などの指標と組み合わせて年齢や性別を推定します。隆線の特徴は年齢や性別に加えて遺伝的背景によっても変わるため、単一の指標だけでは個人の属性を確定できません。物体の表面による変形、目視で数える際の誤差、集団間の差も推定に関わる要素として扱われています。
この分析で得られた割合は、制作に参加した人数の割合と同じとは限りません。経験の浅い作業者が熟練者より多く指紋を残した可能性があるためです。また、指紋は36体から採られており、兵馬俑の広大な遺跡全体を代表するとは限りません。
秦代の記録が示す女性と若年者の労働
秦代の竹簡には、工房で若者が熟練工の指導を受ける徒弟制度が記されています。岳麓書院秦簡の記述では、親方が適切に教えれば、見習いは1年で修了し、新しい職人は2年で一人前になるとされています。研究チームは、若い見習いが鎧の装飾を付けるような比較的単純な作業を担い、熟練工がより技術を要する工程を担当した可能性を挙げています。
別の秦代史料である里耶秦簡には、父親が娘への財産分与を届け出た記録があります。寡婦が世帯を自ら管理した事例や、女性が男性とともにさまざまな労働に従事した記録も残っています。こうした記録は、指紋分析が示す女性の参加を、秦代の労働や社会生活と照らして考える手掛かりになります。
里耶秦簡は、2002年に発掘された井戸から3万6,000点を超える竹簡が見つかり、内容は行政文書を中心に人口、生産、税、司法などに及びます。女性の労働に関する記録は、秦代の社会で女性が担った役割を示しますが、兵馬俑の制作に携わった個人を特定するものではありません。指紋分析と文書記録は異なる種類の証拠です。
遺跡全体の作業者像には追加分析が必要
兵馬俑は秦の始皇帝の墓を守るために約2,200年前に作られた実物大の陶製像です。知られている範囲だけでも、兵士約8,000体、戦車130台と馬520頭、騎馬用の馬150頭が含まれますが、陵墓の広い範囲は未発掘です。今回の割合は、発掘坑1カ所の36体に残った指紋に基づいています。
研究チームは、指紋のデータベースを拡大し、より大きな標本で分析することを今後の課題に挙げています。対象となる像や区域が増えれば、作業者の構成をより広く調べられる可能性があります。











