The Mach Initiativeは、3Dプリントを主体とするラジオコントロール(RC)ジェット機「Kingchaser」で、音速に対する速度の比を表すマッハ数の0.8を設計目標に掲げています。機体には推力300ニュートンのジェットエンジンを搭載し、高速飛行に伴う熱と空気抵抗に対応するため、樹脂の使い分けや表面の研磨を取り入れています。
飛行済みの小型機から、より大きな機体へ
Kingchaserの基になったのは、すでに飛行した小型の3Dプリント製ジェット機「Kingfisher」です。KingfisherはPLAという樹脂で作られ、初の3Dプリント製ジェット機をうたっていました。Kingchaserでは機体とエンジンを大型化し、速度記録への挑戦を進めています。
設計目標のマッハ0.8は、約990km/hに相当します。ギネス世界記録の「遠隔操縦のジェットエンジン搭載模型航空機」という記録区分では、Niels Herbrich氏が記録保持者です。同氏の記録計測では、200メートルの区間を両方向に飛行した速度の平均が使われました。
Kingchaserはこのジェットエンジン搭載模型航空機の記録を目指しています。一方、626km/hの記録を持つ機体は、4つのローターを備えたクアッドコプターです。速度の比較対象にはなるものの、Kingchaserが挑む記録区分はジェットエンジン搭載機を対象としています。
機体の大部分はPETG、エンジン周辺はPPS-CF
Kingchaserのオレンジ色の部分は主にPETGという樹脂で3Dプリントされています。内部には炭素繊維の棒とアルミニウムのフレームを組み合わせ、機体にかかる荷重を支える構造を採用しています。PLAからPETGへ変更した理由は、目標速度で予想される空力加熱に対応するためです。
エンジン周辺の黒い部分には、ポリフェニレンサルファイドに炭素繊維を加えた「PPS-CF」を使用しています。さらに外側を炭素繊維で包み、エンジンの熱に対応する構成にしています。
こうした材料を比較する指標の一つが、一定の荷重を受けた試験片が所定量だけ曲がる温度を測る「熱変形温度(HDT)」です。OzFDMが扱うPETG製品の値は、0.455MPaの試験荷重で68〜74℃です。これは同社の製品についての値であり、Kingchaserの部品の使用上限温度を示すものではありません。
OzFDMは、HDTを材料の比較に使う指標とし、安全に使える温度の上限とは区別しています。実際の部品では荷重の大きさ、熱にさらされる時間、積層構造や内部の隙間、壁の薄さが変形に関わります。
炭素繊維を混ぜる効果について、FitlyFastは、樹脂が軟化する性質を表すガラス転移温度そのものを上げるのではなく、荷重下での変形を抑えてHDTを高めると説明しています。また、PPS-CFの造形には高温に対応するプリンター設備が必要で、炭素繊維入り材料はノズルを摩耗させるという加工上の制約もあります。
表面の研磨で高速域の抵抗に対応
Kingchaserでは、機体の外皮を滑らかに研磨しています。目標とする速度域では表面の摩擦による抵抗が大きいことを踏まえた処理です。
音速に近い遷音速領域で表面の粗さを扱ったDavid Hue氏らの研究では、航空機の三次元形状を使った風洞試験と数値計算を比較しています。試験は平均表面粗さが約0.5マイクロメートルの模型を用い、最大マッハ0.95の条件で行われました。結果は、従来の工学的な基準では影響が小さいと扱われるような粗さでも、揚力や抵抗に大きく影響し得ることを示しています。
David Hue氏らは、抵抗を摩擦抵抗、粘性圧力抵抗、造波抵抗、誘導抵抗に分けて表面粗さの影響を調べています。遷音速の性能評価では、表面を完全に滑らかと仮定せず、実際の粗さを考慮する必要があるという知見は、Kingchaserの外皮研磨にも関係します。The Mach Initiativeは、機体製作で取り入れた細部に続く内容も今後公開する予定です。









