AMDは2026年10月5日、GPU計算向けのソフトウェア基盤「ROCm 10.1」を公開しました。ストレージとGPUの間のデータ転送、CPU側のメモリ配置を見直し、性能分析やローカルAIの導入に使うツールも更新しています。
ROCmは、AIや高性能計算などに使う、オープンソースのGPU計算プラットフォームです。コンパイラー、実行環境、計算ライブラリーを含み、AMDのInstinct、Radeon、Ryzen AIを対象としています。
ストレージとGPUの間の転送経路を更新
AMD Infinity Storageは、CPUメモリを経由せずにストレージとメモリの間でデータを移動するライブラリーです。ROCm 10.1では、その構成要素であるhipFILEに、非同期処理、複数要求の一括処理、入出力統計の機能を追加しました。
非同期の高速処理経路では、読み書きの要求をHIPストリーム上で直接実行し、ホストメモリにいったんデータを置く段階を省きます。HIPはAMD GPU向けのC++実行時APIとカーネル記述言語で、GPUアプリケーションの実行と開発を支えます。AMDは、この転送経路の変更によって、学習途中の状態を保存するチェックポイント処理や、生成AIの計算で使うKVキャッシュの退避処理の遅延を減らし、転送効率の改善を図っています。
一括入出力APIは、複数のファイル要求をまとめて受け付け、内部のワーカースレッドに振り分けます。また、hipFILEの入出力統計をROCmの性能分析ツールへ渡し、処理のボトルネックが計算、メモリ、データ供給のどこにあるかを調べられるようにしています。
CPUとGPUに近いメモリを指定可能に
HIPの仮想メモリ管理には、特定のCPUのNUMAノードを指定してホストメモリを割り当てる機能が加わりました。NUMAは、CPUやGPUとメモリの位置関係によってアクセスの負担が変わる構成を指します。
複数のCPUソケットを備えるシステムでは、別のソケットに接続されたメモリへのアクセスに、ソケット間の接続を通る追加の転送が必要になります。GPUとホストメモリの転送でも、メモリがGPUの接続先から離れたNUMAノードにあると、ソケット間の接続をまたぐため、遅延や帯域の負担が生じます。
この指定機能は、処理を行う場所に近いメモリを使うためのものです。AMDは、GPU間通信ライブラリーのRCCLなどが、NUMAノード内でコピーを伴わない通信経路を構築し、ソケット間の不要な転送を減らす用途を挙げています。
ローカルAIの導入と性能分析を支援
ROCm CLI v1.0.0は、AMD GPU上でローカルAIをインストール、設定、実行する単一の実行ファイル形式のツールです。ROCm 10.0と10.1に対応し、LLMの推論・配信に使うvLLM向けに、互換性のあるflash-attnとamd-aiterのパッケージを自動検出します。
導入コマンドはROCm 10の新しいパッケージ構成を扱い、自動化環境向けの非対話インストールにも対応します。Linux、Windows、WSL2で利用でき、端末上のダッシュボードでGPUの稼働状況、モデル配信、チャットを扱えます。
AIコーディングエージェント向けのAMD Skillsにも機能が追加されました。新しい「quark-install」は、アクセラレーターに合うPyTorch構成とともにAMD Quarkを導入・検証します。「quark-torch-llm-ptq」は、PyTorchやHugging Faceの大規模言語モデルに対し、学習後に数値の表現精度を変える量子化を実施し、生成したモデルを検証します。
性能分析用のROCprofiler-SDKには、ベータ版のカーネル再実行機能が加わりました。GPUが一度に収集できる性能カウンターの数に制約があるため、各カーネルをその場で再実行し、追跡対象のデバイスメモリを各測定の間に復元します。これにより、カウンターのグループごとにアプリケーション全体を起動し直す代わりに、一度の実行で一式のカウンターを収集します。
ROCm Compute Profilerでは、計算量とメモリアクセス量の関係を分析するrooflineレポートが、操作可能なHTML形式になりました。個別カーネルやキャッシュ階層に着目でき、命令単位のサンプル数や処理停滞の分析もカーネルごとに表示します。
再ビルド、計算ライブラリー、監視機能も変更
ROCmのLLVMベースのコンパイラー基盤は、HIPやOpenCLのコードをAMD GPU向けにコンパイルします。ROCm 10.1では、リンク時最適化がHIPのデバイスコードを分割した結果をキャッシュし、小さな変更の際に未変更部分を再利用することで、差分ビルドの時間を短縮します。
AI推論用のグラフコンパイラーMIGraphXは、バックエンドをrocMLIRからrocMLIRTritonへ変更しました。疎行列の計算ライブラリーrocSPARSEは、ELLPACK形式の行列を別形式に変換せず、三角連立方程式を解けるようになっています。スレッドを使うコードへ段階的にGPU処理を導入するhipThreadsも含まれます。
監視・管理ツールでは、ROCm SMIの非推奨期間が終了し、AMD SMIが後継となりました。AMD SMIはGPU、CPU、APUを扱い、LinuxとWindowsの物理環境・仮想環境に対応します。コンテナー内で動くGPUプロセスを識別し、DockerやKubernetesで使う完全なコンテナーIDを報告する機能も備えます。
WSL2は技術プレビュー、Ubuntuの仮想化対応も拡大
ROCm 10.1のWSL2対応は技術プレビューです。WSL2はWindows上でLinux環境を動かす機能で、ROCmはGPUの準仮想化を通じてWindows側のドライバーと通信します。Linux側には標準のROCmパッケージを導入でき、手動の修正やゲスト側カーネルのビルドは不要とされています。
Windows側のドライバーを介してGPUを使う方式は、NVIDIAのCUDA向けWSL2環境にもあります。NVIDIAはWindows側のドライバーをLinux環境に公開する構成を採り、WSL2での管理ツールNVIDIA-SMIには機能制限があるとしています。
ROCmの仮想化対応では、GPU資源を仮想マシンへ割り当てるKVM SR-IOVの対応範囲が拡大しました。Ubuntu 26.04 LTSを、ホストとゲストの双方のOSとして利用できます。









