
火星の衛星フォボスとダイモスは、火星の周囲でどのように生まれたのでしょうか。JAXAの火星衛星探査計画「MMX」は、フォボスを詳しく観測して地表の試料を採取し、地球へ持ち帰る計画です。観測と試料分析を通じ、火星衛星の起源をめぐる二つの仮説の検討を目指します。
火星衛星の起源をめぐる二つの仮説
一つは「巨大衝突仮説」です。火星に大きな天体が衝突して破片が軌道上に広がり、それらが集まって衛星になったと考えます。もう一つの「捕獲仮説」は、外側の太陽系から来た小惑星を火星の重力が捕らえたとする考えです。
二つの仮説では、衛星が生まれた場所や材料の由来が異なります。MMXは火星とフォボス、ダイモスを観測し、フォボスから持ち帰る試料を詳しく分析することで、その起源の解明を目指します。
衛星の成り立ちは、火星圏の形成史を調べる手掛かりにもなります。MMXは、火星の大気や衛星近傍の宇宙環境も観測対象とし、物質が火星の大気から宇宙へ移る過程などを調べる計画です。
フォボスの試料から火星圏を調べる
MMXが目標に選んだフォボスは、火星の二つの衛星のうち内側を回っています。火星そのものへの着陸や試料回収には強い重力が技術的な難しさとなるため、MMXは衛星を探査対象に選びました。
探査機はフォボスの地形や表面の候補地点を観測し、地形、スペクトル、化学組成などを調べて着陸場所を選ぶ計画です。着陸地点を決める前に複数の候補を詳しく調べ、観測結果を試料採取地点の選定に使います。
計画では、探査機がフォボス表面で最低10グラムの試料を採取し、カプセルに収めて地球へ持ち帰ります。JAXAは、火星圏から試料を地球へ持ち帰る初のミッションと位置づけています。
フォボス近傍を観測する準衛星軌道
フォボスは火星の重力に比べて小さな重力しか持たず、探査機が通常のケプラー軌道でフォボスを周回することはできません。そこでMMXは、火星を中心に見るとフォボスに似た軌道を進み、フォボスから見ると周囲を回っているように見える準衛星軌道(QSO)を使います。
探査機の軌道をフォボスの軌道からわずかにずらすことで、フォボスの近くを継続して観測できる形にします。火星中心の見方とフォボス中心の見方で探査機の動き方が異なるのが、QSOの特徴です。
QSOには高度の異なる軌道が設定され、MMXは高い軌道から中高度、低高度へ移る計画です。軌道高度に応じてフォボスを回る周期も異なり、資料に示された例では高高度のQSO-Hが7.59時間、最も低いQSO-L-Cが3.97時間です。 低高度のQSO-L-Cでは、ガンマ線・中性子線分光計MEGANEによる主要な観測を行う予定です。
観測から採取、地球への帰還まで
MMXは2026年度の打ち上げを予定し、火星圏への往復を含めて約5年間のミッションを計画しています。火星圏に到着した後はQSOからフォボスを観測し、ダイモスも遠方から観測する予定です。
フォボスでは、まず探査車が着陸して表面を観測し、その後に探査機本体が着陸して試料を採取する計画です。降下、着陸、上昇の過程も観測対象に含まれます。
採取後は探査機が火星圏を離れ、約1年かけて地球へ向かいます。地球大気圏に入る前に試料カプセルを分離し、オーストラリアで回収する予定です。 持ち帰った試料の分析は、遠隔観測とあわせて、二つの起源仮説を検討する材料となります。











