Researchers carried out MRI scans on the trial participants to see how they responded to facial expressions. Photo: Shutterstock
出典: scmp.com

怒り顔の脳内表現を調べる

19歳の参加者1,332人が怒り顔を見るときの脳活動を解析し、視覚情報の処理パターンから将来の抑うつ症状に関わる指標を作る研究が発表されました。この指標は、臨床症状がなかった参加者の4年後の症状を予測し、人口統計情報や基本的な脳活動を用いる基準モデルを上回りました。

脳活動の測定には機能的磁気共鳴画像法(fMRI)が使われました。参加者は中立的な表情から怒り顔へ変わる短い動画を見ました。研究チームは視覚野の活動から、脳が怒り顔をどのようなパターンで表現するかを推定しました。

視覚情報を効率的に表現する群と、ノイズを含む非効率な群を比べると、後者では不安や気分の落ち込みなど、感情面の症状が高い傾向にありました。この差は小さく、群分けだけで個人を診断できる段階ではありません。

予測指標につながる計算モデル

研究チームは、目から入る情報を処理する経路と、感情に関する抽象的な知識を扱う経路を備えた深層学習モデルを構築しました。後者が前者を適度に調整すると表情を認識しやすくなります。調整が強すぎると、実際の顔の情報より既存の概念に基づいて判断する仕組みです。

モデルで概念による調整を強めると、中立的な顔を怒りや悲しみと誤認しやすくなりました。そのときのモデル内部のパターンは、感情症状が高い若者に見られたノイズの多い視覚表現とよく一致しました。

研究チームはこの仕組みに基づく指標を19歳時点の脳画像から算出し、725人を23歳まで追跡しました。19歳時に臨床症状がなかった人のうち、4年後に感情症状が高くなる人を指標が予測しました。研究チームによると、予測性能は人口統計情報と基本的な脳活動を用いる基準モデルを上回りました。

既存のバイオマーカー研究との違い

うつ病の前向きバイオマーカー研究をまとめた2019年のシステマティックレビューでは、75件の研究が対象になりました。検討された指標のうち、発症や再発などを予測する効果がメタ分析で確認されたのはコルチゾールで、オッズ比は1.294でした。

ただし、ベースライン時に臨床診断を受けていた参加者を含む研究を除くと、コルチゾールの効果は有意でなくなりました。脳画像や免疫の指標については、研究間の違いが大きく、比較できるデータが限られていました。

今回の研究は、若者を症状が出る前から追跡し、発症前の予測を調べました。過去のレビューでは前向き予測の根拠が限られており、今回の結果だけでは臨床利用は確立していません。研究チームも、独立した集団での検証が必要だと指摘しています。

予測精度を臨床で確かめる課題

別の研究では、脳の特徴から個人ごとのうつ病関連スコアを算出し、成人702人と青少年の集団で遺伝的リスクスコアと比較しました。成人では、白質や複数の脳画像指標を組み合わせたスコアのほうが、遺伝的スコアよりうつ病との関連が強く示されました。

一方、青少年では抑うつ症状と関連したのは遺伝的スコアで、脳画像スコアとの有意な関連はありませんでした。この結果から、脳画像に基づく指標の関連は、年齢層や測定方法によって異なる可能性があります。

今回の研究は19歳の脳画像から23歳時の症状を予測しましたが、参加者は主に白人で、中・高所得層の出身でした。一般集団で見られた症状差も小さく、個人診断に応用するには、別の患者集団で検証する必要があります。