
ドイツのOrbital Matterは、衛星「Replicator 2」に搭載した3Dプリンターで、自由飛行する衛星の軌道上で真空にさらされた状態でも硬い構造材を造形したと発表しました。約0.5メートルの梁を造形し、そのうち1本は太陽電池アレイの展開に使われました。軌道上で大型構造物を組み立てる構想に向け、真空中での造形を実証しました。
軌道上で樹脂を押し出して梁を造形
Replicator 2は4台のプリンターを搭載し、2026年7月7日に打ち上げられました。そのうち1台が樹脂をノズルから押し出し、紫外線を当てて硬化させました。造形は低軌道を飛行する衛星の外側で行われ、真空、温度変化、微小重力にさらされた環境で材料を固めています。
プリンターは樹脂をコイル状に重ね、紫外線で硬化させて円筒形の梁を作ります。今回の梁は約0.5メートルで、搭載した樹脂の量によって長さが制限されました。Orbital Matterの技術責任者は、地上で可能性を一つずつ試す代わりに、軌道上で学び、必要に応じてソフトウェアを調整するため、4台を同じ衛星に載せたと説明しています。
造形した梁の一つは、柔軟な太陽電池アレイを支えるブームとして使われました。2台のプリンターでアレイを展開する設計でしたが、そのうち1台に異常が起きて動作しませんでした。それでも、完成したブームで太陽電池アレイを展開しました。
ISS内の造形と真空中の造形
国際宇宙ステーション(ISS)で行われてきた造形実験は、加圧され、温度が管理された船内で実施されていました。Orbital Matterは、Replicator 2の造形を、自由飛行する衛星の外側で真空にさらされながら行いました。船内でプリンターを動かす実証と、宇宙空間に露出した状態で材料を押し出して硬化させる今回の実証では、造形環境が異なります。
真空中の3Dプリントでは、過去に地上の真空チャンバーで試験が行われました。2015年にはMade In Spaceが真空環境で試験片を造形し、宇宙空間での実証を目指す技術を試験していました。2023年にはNASAが支援する取り組みで真空チャンバー内の梁造形が行われましたが、実際の軌道には到達していません。
ISS内では、微小重力下での3Dプリントが先行していました。2014年にはISSの宇宙飛行士が運動器具の部品となるバックルを造形し、その後も複数の物体が作られました。加圧環境での造形に続き、Replicator 2は衛星の外側で構造材を作る実証を行いました。
真空中で樹脂を扱う際の材料上の課題
樹脂を液体の状態で高真空にさらすと、成分の揮発によって粘度や硬化の性質が変わることがあります。宇宙用の材料には、揮発した成分による衛星表面の汚染を防ぐため、放出ガスを抑える要件もあります。そのため、樹脂を押し出して紫外線で硬化させる方式では、形を保つ工程に加え、真空にさらした後も押し出しや硬化に適した性質を保つことが課題です。
2026年の研究では、市販の光硬化性樹脂4種類を高真空にさらして比較しました。液体状態では4種類すべてで粘度が上がり、紫外線による硬化効率は全般に低下しました。液体樹脂の総質量損失はすべて1%を超えましたが、硬化後の樹脂では種類によって放出ガスの結果が異なりました。
同研究では、高真空への適性が比較的高かった樹脂について、揮発成分を事前に取り除く処理を条件に挙げています。これは市販樹脂の試験結果であり、Orbital Matterが使った独自樹脂の測定結果ではありません。今回の梁が軌道上で硬化した事実と、材料の長期的な性質や汚染リスクの評価は別の検討事項です。
太陽電池アレイの大型化に向けた次の実証
宇宙機の太陽電池アレイやアンテナは、打ち上げ時にロケットのフェアリングに収める必要があります。軌道上で梁を作って構造物を支える方式では、折り畳んで運び、軌道上で展開する従来の設計とは異なる組み立て方が可能になります。Orbital Matterの最高経営責任者は、ミッションが求める大きさに応じて軌道上でアレイを作れることを今回の実証で示したと述べました。
同社は2028年の打ち上げを予定する次の実証ミッションで、より大型の衛星にプリンターを搭載する計画です。太陽電池アレイの展開を試し、5キロワットの発電を目指します。同社はさらに、2030年までに翼1枚あたり100キロワット超の展開を目標に掲げています。
Orbital Matterは、欧州宇宙機関(ESA)および衛星メーカーのThales Aleniaと協力し、プリンターを使った展開システムを衛星へ組み込む取り組みも進めています。対象には、太陽電池パネルやアンテナなどの構造物が含まれます。











