NASAと米ローレンス・バークレー国立研究所の放射光施設Advanced Light Source(ALS)などの研究チームは、宇宙船の熱シールド材料が加熱で分解する過程を、X線CTとAIを組み合わせて3次元で捉えました。宇宙船の背面を覆う部分に使われる2種類の材料では、内部に空洞が生じる場合と、互いにつながった細い流路が形成される場合で、変化の仕方が異なりました。こうした内部構造の違いは、再突入時に材料の中を熱やガスが移動する挙動に関わります。

加熱中の内部構造をX線CTで追跡

熱シールドは、大気圏への突入時に宇宙船を熱から守る装備です。今回調べた材料は、加熱によって自ら分解する「アブレーション」という仕組みで熱を吸収し、外側の層を失いながら機体を保護します。この変化を微細な構造まで追うのは難しく、従来は試験前後の観察が計算モデルの作成に使われていました。

研究チームには、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校とNASAの研究者が参加しました。ALSでは、温度、圧力、ガスの混合比をそれぞれ制御できる試料環境を使い、材料を最高1,652°Fまで加熱しました。観察に用いたのは、X線で内部を微細な3次元画像にする「マイクロCT」です。複数の時点でマイクロメートル規模の構造変化を記録しました。

NASAジョンソン宇宙センターの研究者ビシュヌ・オルガンティ氏によると、ALSのこの手法では、アルテミス計画や火星への大気圏突入ミッションに関係するものを含め、NASAの主要なアブレーション型熱シールド材料のほぼすべてが調べられています。今回の対象は、そのうち宇宙船の背面を覆う構造に使われる軽量材料、SLA-220とSLA-561Vです。

コルクを含む材料は空洞に、シリコーン系材料は流路に

SLA-561Vは、構造を構成する充填材としてコルクを含みます。加熱するとコルクが化学的に分解して失われ、材料の各所に空洞が残りました。一方、SLA-220には同様の有機充填材がなく、ゴム状のシリコーンを主体とする部分に、枝分かれした流路の密なネットワークが形成されました。

独立した空洞と、互いにつながった流路では、再突入条件下での熱やガスの移動の仕方が異なります。研究チームは、加熱に伴う化学的な分解と、材料内部の空隙の変化を追跡しました。得られた測定値は、熱シールドの挙動を予測するモデルの開発や検証に用いるデータとなります。

高速撮影と細部の再現をAIで組み合わせる

変化を追う撮影では、広い範囲を短い間隔で記録することと、微細な構造を高解像度で捉えることの両立が課題でした。研究チームは、強い広帯域のX線で低解像度の画像を素早く取得し、加熱前後には単一波長のX線へ切り替えて、静止した試料を高解像度で撮影しました。

その前後の画像を学習に使い、加熱中の連続画像を高解像度化したのが、生成モデルと識別モデルを組み合わせる「敵対的生成ネットワーク(GAN)」による超解像処理です。超解像は、低解像度の入力から高解像度の画像への変換を学習する方法です。今回はこの処理により、材料が変形し、炭化し、内部に空隙ができる過程を3次元の連続画像として記録しました。

同じくGANを用いるCT超解像の研究「GAN-CIRCLE」では、画像の構造を保つための制約を学習に組み込み、3つの大規模CTデータセットで定量評価と定性評価を行っています。また、医療画像の超解像を比較する「MedSR-Vision」の研究では、元画像への忠実さ、見た目の再現性、鮮明さを複数の指標で評価し、画像強調によって実在しない細部が生じる問題を挙げています。熱シールドの観察と共通する技術上の論点は、AIによる細部の再現を、構造の保持や画像の忠実さと併せて評価する点です。

アルテミスIではガスの逃げにくさが材料脱落の原因に

内部のガスの通り道は、NASAの無人月周回試験ミッション「アルテミスI」で起きた熱シールドの材料脱落にも関係します。NASAは、宇宙船オリオンの熱シールド外層を構成するAvcoatで、分解によって発生したガスが想定どおりに抜けず、圧力の上昇と亀裂を招き、炭化した材料の一部が脱落したと結論づけました。

オリオンは、大気圏に入った後に揚力でいったん外へ戻り、再び突入する方法を使いました。NASAの調査では、2回の突入の間に加熱率が下がる一方、Avcoat内部には熱が蓄積し、ガスが発生していました。飛行前の地上試験では、実際の飛行より高い加熱率によってガスを通す炭化層が形成されました。しかし、飛行中の比較的穏やかな加熱では炭化層の形成が遅れ、内部圧力が高まりました。

NASAは、飛行後に約200個のAvcoat試料を取り出して調べ、121回の熱試験を実施しました。飛行前からガスを通しやすかった部分では、亀裂や炭化層の脱落は起きていません。この調査でもALSが使われ、Avcoatを加熱した際の微細構造の挙動が調べられました。NASAは当時、アルテミスII用の熱シールドについて、再突入の運用を変更して使用する方針を示しました。