This false-colour, polarised image from Copernicus Sentinel-1 shows us the surface of the sea beneath the clouds, as seen by the satellite’s radar instrument. The sea conditions reflect the strong winds as Typhoon Surigae passes over.
出典: esa.int

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が、太陽系外にある褐色矮星WISE 0855の大気を約11時間観測し、水雲の厚さが場所によって変化する証拠を捉えました。約15分ごとに赤外線スペクトルを記録したことで、天体の明るさだけでなく、雲や大気中の分子に関係する変化も調べられました。この観測は、地球のような惑星で天候を見つけたという意味ではありません。太陽系外の冷たい天体で、水雲の変動を分光で追った成果です。

11時間の観測で水雲の変化を調べる

WISE 0855は地球から約7.5光年の距離にある褐色矮星です。褐色矮星は、通常の恒星のように水素の核融合を持続できない天体で、WISE 0855は既知の褐色矮星の中でも特に低温です。研究チームはジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線分光器NIRSpecを使い、約11時間にわたり、約15分間隔でスペクトルを記録しました。

観測対象の温度は約265ケルビンです。研究チームによると、水蒸気が上層大気で凝結して雲を作り得る一方、アンモニアは凝結しない温度条件にあります。そのためWISE 0855は、水雲と大気中の化学物質の変化を調べる対象になっています。

観測は2.87〜5.27マイクロメートルの波長域を対象とし、スペクトルの信号対雑音比は80〜100、分解能は約1,000でした。得られたデータでは、一酸化炭素の吸収に最大約10%の周期的な変動が見られました。一酸化炭素とホスフィンの変化には相関があり、研究チームは大気モデルとの比較から、WISE 0855にまだらな水雲が存在する証拠を示しました。

明るさの変化から分子と雲の変化へ

褐色矮星では、大気の不均一な領域が自転に伴って視野に出入りし、天体全体の明るさが変わります。従来の観測では、明るさの変化から雲の分布を推定できても、雲、化学組成、温度の影響が重なっていました。今回は波長ごとのスペクトルを時系列で比較したため、どの分子の吸収が変化したかを調べられました。

研究チームの解析では、一酸化炭素とホスフィンの存在量の変化は、雲の変化が起きる層より深い圧力領域に由来するとされます。一方、水雲の厚さは、より低い圧力の領域で変化するという結果でした。同じ大気の変動でも、分子と雲では変化が表れる高度が異なる可能性があります。明るさだけを測る観測より、層ごとの違いを詳しく追えることが示されました。

水雲の厚さは時間とともに変化し、WISE 0855の自転によって異なる大気領域が見えると、スペクトルにも変化が現れます。ただし、今回直接観測されたのはスペクトルの変動です。研究チームは大気モデルとの照合から雲の証拠を得ました。雲粒が雨として地表へ落ちる様子を撮影したわけではなく、液体の雨や地表の存在を示す観測でもありません。

以前の褐色矮星観測との違い

褐色矮星の雲は、これまでも明るさや色の変動を通じて研究されてきました。たとえば、褐色矮星SIMP J0136を対象にしたJWSTの時系列分光では、水、一酸化炭素、メタンの分子吸収に変動が見つかっています。同研究では、雲の変調や大気中の化学変化を含む複数の特徴が分光データから分析されました。

ハッブル宇宙望遠鏡による別の研究では、褐色矮星連星Luhman 16ABのスペクトルを約6.5時間観測しました。Luhman 16Bは観測波長全体で変動し、その振幅は7〜11%でした。変動は水の吸収帯でも波長によって異なり、雲の厚さが異なる領域を組み合わせたモデルで、その多くを説明できました。

先行観測では、褐色矮星の明るさやスペクトルが時間とともに変わり、雲の状態と関係することが示されてきました。WISE 0855の観測は、冷たい大気の水雲に注目し、スペクトル中の分子の変化と雲の厚さの変化を分けて分析しました。研究チームは、この手法がガス惑星系外惑星の大気を調べる上でも役立つ可能性を挙げています。

次に調べる水雲の時間変化

研究チームは、より長い観測期間で水雲の覆う範囲がどう変わるか、また嵐が形成・消滅する時間尺度を調べる課題を挙げています。さらに、高度の異なる大気層で分子の変動を比較し、WISE 0855をより暖かい褐色矮星や巨大惑星と照らし合わせることも今後の研究項目です。今回の約11時間の観測は、こうした時間変化を追うための基準となるデータを提供しました。

研究チームは、近傍にある別の冷たい天体でも、同様の水雲の変動を測定できるか調べる方針です。褐色矮星で手法を確かめることは、恒星の光に隣接して観測が難しい系外惑星の大気を理解する研究にもつながる可能性があります。ただし、WISE 0855は恒星の周囲を回る惑星ではなく、単独で存在する褐色矮星です。