
心臓が硬くなる心不全で改善を確認
ザクロなどを食べた後に腸内細菌が作る代謝物、ウロリチンAについて、キングス・カレッジ・ロンドンの研究チームは、心不全の実験モデルで心臓の機能指標が改善したと報告しました。未治療の動物と比べ、改善幅は最大80%でした。今回の結果は動物と実験室で作ったヒト心臓組織で得られたもので、患者への治療効果を示すものではありません。
対象は、心不全の一種である「駆出率が保たれた心不全(HFpEF)」です。駆出率は心臓が血液を送り出す割合を指します。HFpEFでは、収縮して血液を送り出す機能が保たれていても、心筋が硬くなって拍動の間に十分に緩まず、血液を満たしにくくなります。
ウロリチンAを与えた動物では、心臓の緩みやすさが改善し、心筋の瘢痕化や心臓の拡大も抑えられました。研究チームは、血管や心筋の働きに関わるタンパク質「PKGIα」を活性化する仕組みが、こうした変化に関係するとしています。
PKGIαの特定部位を介する作用
研究チームは、PKGIαのシステイン42(Cys42)というアミノ酸部位に着目しました。ウロリチンAはこの部位に作用してPKGIαを活性化し、HFpEFモデルの心臓の拡張機能を改善するとともに、心臓の構造変化を抑えました。
PKGIαは血管の機能にも関わり、血管や心臓を拍動の後に緩める働きを支えます。ウロリチンAによる血管の弛緩も確認され、その反応はPKGIαのCys42に依存していました。
研究チームは、ヒト幹細胞から作った人工心臓組織でも試験しました。ウロリチンAを加えると、組織の収縮と弛緩の速度がともに高まりました。これは実験室での組織モデルの結果であり、人の心臓や患者の症状が同じように変化することを確かめたものではありません。
HFpEFの治療は症状や併存疾患にも対応
米国心臓病学会(ACC)の2026年の治療経路では、HFpEFに対してSGLT2阻害薬を早期に始め、適応がある場合は非ステロイド型のミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)も検討するとしています。これらは、心不全による入院を減らし、症状や生活の質、身体機能の改善を目指す治療として挙げられています。
同経路では、体液貯留によるうっ血にループ利尿薬を使い、血圧、糖尿病、慢性腎臓病、肥満などの併存疾患も管理するよう示しています。心房細動や冠動脈疾患がある場合もそれぞれに対応し、患者の状態や併存疾患に応じて治療を調整します。

HFpEFでは心臓の収縮力が保たれていても、拡張して血液を受け入れる機能に問題があります。そのため、収縮力の弱い心臓を支える治療とは異なる課題があり、今回の研究は心筋の弛緩に関わる経路を標的とする可能性を検討しました。ウロリチンAが既存の治療に代わる、あるいは患者に有効だと示されたわけではありません。
人での安全性研究と今後の検証
ウロリチンAは別の目的の臨床研究で、健康な高齢者に単回または4週間にわたって投与されています。4週間の試験では、1日500ミリグラムまたは1,000ミリグラムを摂取し、血中で検出されました。また、血漿中のアシルカルニチンや骨格筋のミトコンドリア関連遺伝子発現にも変化が見られました。
その研究では、対象となった健康な高齢者において安全性プロファイルは良好と評価されました。ただし、対象は心不全患者ではなく、心臓の機能やHFpEFの症状への効果を調べた試験でもありません。
研究者らは、患者への効果を確かめるには臨床試験が必要だとしています。ザクロを食べることでHFpEFを治療できるとする根拠はなく、研究者も食事による治療を勧めていません。












