
腱の修復を支える一時的な足場
カナダのウォータールー大学の研究チームが、軟部組織の再生を支えるハイドロゲルを開発しました。ハイドロゲルは水を多く含むゲル状の材料です。細胞が新しい組織をつくる間の足場となり、組織の治癒に伴って体内で分解・吸収されます。
研究チームは、ラットの腱損傷を対象とした前臨床試験で、ハイドロゲルを使った修復と縫合だけによる修復を比較しました。ハイドロゲルを使った群では治癒の改善が見られ、新しくできた組織は縫合だけの群より整った構造を示しました。
ハイドロゲルは腱が治る過程で徐々に分解され、約8週間で体内に吸収されました。Youchao Teng氏は、再生した腱の機能が健康な腱と同程度だったと述べています。
ナマコの組織が変える硬さ
この材料の着想源は、刺激に応じて体の硬さを大きく変えるナマコです。ナマコの真皮は、神経の制御を受けて硬さが変わる「キャッチ結合組織」の一例です。
真皮の機械的な性質は、プロテオグリカンを含むハイドロゲルの中にコラーゲン線維が埋め込まれた細胞外物質によって決まります。ナマコの真皮には、柔らかい状態、標準の状態、硬い状態の3段階があります。
柔らかい状態から標準状態への変化と、標準状態から硬い状態への変化では、硬さを増す分子の仕組みが異なります。研究チームはこの性質を手掛かりに、支える組織に合わせて硬さを調整できるハイドロゲルを設計しました。
凍結と塩溶液で硬さを調整
ハイドロゲルを作る際は、まず材料を凍らせて内部構造を形成します。その後、特別に調製した塩溶液に浸し、柔らかさや硬さを調整できます。
この方法で、異なる力学的性質を持つ組織に合った足場を目指しています。ウォータールー大学の機械工学教授Yimin Wu氏は、脳の近くに置く材料と硬い腱を修復する材料には、それぞれ異なる振る舞いが必要だと説明しています。
研究チームは、腱のほか、筋肉、軟骨、皮膚、脳やその他の臓器にも応用できる可能性を挙げています。ラットを用いた今回の試験では、腱の修復を調べました。
次の段階は大型動物での試験
研究は約4年にわたり、国際チームが進めました。成果をまとめた論文「Bioinspired Hydrogels with Broadly Programmable Mechanics for Soft-Tissue Interfaces」は、学術誌『Advanced Functional Materials』に掲載されました。
次の段階として、研究チームは大型動物での試験を予定し、その後に臨床試験を目指しています。ラットでの結果を人の治療に応用するには、これらの段階を経て安全性と有効性を調べます。
Wu氏とTeng氏は研究に関連する特許を2件申請し、商業化を目指す会社を設立しました。ハイドロゲルの医療利用に向けた研究と事業化に向けた取り組みが並行して進められています。











