中東からの原油輸送が回復する一方で、国際的な原油価格の指標であるブレント原油は1バレル100ドルを超え、戦争前より40%以上高い水準にあります。Reutersのコラムニスト、ロン・ブッソ氏は、原油の供給量だけでなく、タンカー運賃や保険料の上昇、精製能力の不足が価格を押し上げていると分析しています。

ホルムズ海峡の輸送量は戦争前の約8割に回復

ホルムズ海峡を通る原油量は、9月26日時点の7日間平均で日量1,420万バレルに達し、戦争前の約8割まで回復しました。原油輸送を分析するKplerの集計では、イランとの戦争開始後で最も高い水準です。エネルギー市場の調査会社Energy Aspectsは、世界の石油供給不足を日量約160万バレルと推計し、混乱が最も大きかった5月の約400万バレルから縮小したとしています。

サウジアラビアは、原油を紅海沿岸のヤンブー港へ運ぶ東西パイプラインに輸出を振り向けていましたが、9月上旬の攻撃後、ホルムズ海峡経由の輸出へ戻しました。Kplerによると、同国の9月の海峡経由の輸出量は平均日量300万バレルで、戦争中では最多となりました。ただし、戦争前の輸出量の約半分にとどまっています。

ブッソ氏は、東西パイプラインの稼働が徐々に正常化すれば、サウジアラビアの輸出量が戦争前の水準へ近づく可能性を指摘しています。一方、米国とイランはホルムズ海峡の今後を巡る合意に至っておらず、同氏は再び情勢が悪化するリスクも原油価格に織り込まれているとみています。

積み替えと長距離航路がタンカーを拘束

湾岸では、複数のタンカーで原油をホルムズ海峡からオマーン湾へ運び、そこで小型船に積み替えてアジアの買い手へ届ける輸送方式が使われています。この方式は、大量の原油を運ぶ超大型原油タンカー(VLCC)を拘束し、ほかの航路で使える船を減らしています。買い手が大西洋圏から原油を調達する動きも、輸送距離を延ばし、船の需給を引き締める要因です。

ナイジェリアのボニーから中国の寧波までの航路は約1万1,500海里で、サウジアラビアのラスタヌラからホルムズ海峡とマラッカ海峡を経由する約6,500海里に比べ、距離が77%増えます。Eagle Intelligence AIは、この距離の増加によって船の拘束期間が延び、輸送量と距離を掛け合わせた輸送需要が増えると説明しています。

船舶仲介会社Poten & Partnersによると、中東からアジアへVLCCで原油を運ぶ運賃は、最近では1日120万ドルを超えました。1月の約3万ドルから上昇し、原油の到着価格に占める運賃の割合は、従来の約3%から約27%になっています。ブッソ氏は、海峡経由の輸出がさらに増えても、積み替えを伴う輸送網への需要が高まり、当初は船の不足を悪化させる可能性があるとみています。

ブレント価格と買い手の到着価格は異なる

原油の指標価格と、買い手が実際に負担する到着価格には違いがあります。Kplerは、到着価格を、積み出し時の原油価格に運賃、保険料、価格の期間差、指標間の価格差、品質調整などを含めた費用と説明しています。このため、ブレントの値動きだけでは、輸送先ごとの調達費用を表せません。

Kplerは、原油の調達先を比較する際には、価格差に加えて航路の運賃と、精製時の収率や処理条件に応じた品質調整が重要だとしています。Energy News Beatのクラーク・サベージ氏も、運賃と保険料の上昇は原油の到着価格を押し上げ、製油所の採算を圧迫する要因になると分析しています。

ディーゼルの供給を左右する原油と設備の組み合わせ

中東とロシアで精製能力が失われたことも、燃料供給の制約になっています。ロシアではウクライナのドローン攻撃が多数の製油所に被害を与え、ディーゼル価格は過去最高水準に上昇しました。主要7カ国(G7)は戦略備蓄からディーゼルを放出すると決めましたが、ブッソ氏は、失われた精製能力を回復させる措置ではないため、効果は一時的になるとみています。

ディーゼル供給には、原油の種類と製油所の設備の組み合わせも関係します。原油は密度や硫黄分が異なり、製油所は特定の原油の配合を効率よく処理するよう設計されています。Observer Research Foundation(ORF)は、湾岸の中質・重質で硫黄分の多い原油を処理するアジアの製油所では、水素を使って重い成分を分解する水素化分解設備や、硫黄を除く脱硫設備が重要になると説明しています。

同じ製油所で中質・重質の高硫黄原油から軽質・低硫黄原油へ切り替えると、一般にナフサやガソリン成分の割合が増え、ディーゼルなどの中間留分の割合が減るとORFは指摘しています。中間留分とは、蒸留で得られる成分のうち、ディーゼルやジェット燃料などになる部分です。実際の製品構成は、蒸留、分解、脱硫などの設備に左右されます。

Contango Energyも、比較的単純な製油所と、重い成分を分解する設備を備えた製油所では、効率よく処理できる原油の範囲が異なると説明しています。中東の原油を別地域の原油に置き換えても、既存設備で得られる製品の割合や処理費用まで同じになるわけではありません。

ブッソ氏は、製油所がディーゼルを多く得られる中質・高硫黄原油の確保を競っていると指摘しています。こうした原油は中東とロシアに集中しており、両地域の供給混乱が調達を難しくしています。同氏は、精製能力の不足でディーゼル価格が上がり、その生産に適した原油への需要が増すことで、原油価格も支えられると分析しています。