
ばらばらの羊皮紙葉が写本になった可能性
15世紀に作られた未解読のヴォイニッチ写本について、研究者らは、ページが現在とは異なる順序で綴じられた可能性を示しました。ばらばらの紙葉をひとまとまりの折丁にせず、個別の折り葉を重ねた構造だったという仮説です。
写本は羊皮紙の葉からなる中世の冊子本で、約240ページに約3万8,000語の独自文字「ヴォイニッチ語」と、人物、植物、占星術記号の図が記されています。羊皮紙は動物の皮を加工した筆記面で、当時の本は折り葉を束ねて綴じる方法が一般的でした。
研究を行ったリサ・ファギン・デイヴィス氏とコリン・レイフィールド氏は、写本の物理的な構造に注目しました。デイヴィス氏は、筆跡から見るとページの並びに不自然な点があり、図の一部がページの端で途切れ、間に複数のページを挟んで反対側に現れる例もあると述べています。
折丁と個別の折り葉の違い
中世写本の折丁(クワイア)は、複数の羊皮紙の紙葉を折って重ねた束です。一般的な作り方の一つでは、4枚または5枚の紙を重ねて半分に折り、8葉または10葉からなる束にします。
折り葉は1枚の紙を二つ折りにしたもので、開くと2葉になります。通常の折丁では複数の折り葉を重ねて冊子状にし、その束をさらに綴じて本にします。これに対し、研究者らが想定する「シングリオン」は、折り葉を折丁としてまとめず、個別に扱う構造です。
この仮説では、ヴォイニッチ写本はシングリオンの束として作られた後、現在の形に綴じられたことになります。折丁を前提にページの連続性を考える場合とは、紙葉の順序の捉え方が変わります。写本が当初から一冊の本として整然と構成されていたのではなく、後からまとめられた可能性も検討されています。
文章の類似度からページのまとまりを分析
研究者らは、ページ順が入れ替わっているという見立てを、文字列の分析でも検討しました。レイフィールド氏は、写本を意味のある文章と仮定し、ページごとの文章のまとまりが似ているかどうかを統計的に比べました。
使ったのは、潜在意味解析(LSA)と呼ばれる手法です。文章中の語の使われ方から、テキストのまとまりに隠れたパターンを探す自然言語処理の方法です。レイフィールド氏は、小規模なデータにも利用しやすいと説明しています。
写本の分析対象は約3万5,000語で、研究者らはLSAによってページ間の類似度を調べました。その結果、類似度が低いページの組み合わせと、高いページの組み合わせが見つかりました。研究者らは、前者は同じまとまりに属さない可能性を、後者は一緒に読まれる予定だった可能性を示す結果と解釈しています。
解読への手掛かりと残る検討
ページ順の仮説は、図がページをまたいでつながって見えることや、筆跡の並びに関する疑問を説明しうるとデイヴィス氏は述べました。また、ページが正しい順序に並んでいると仮定したこれまでの研究は、再検討が必要になる可能性があります。
デイヴィス氏は、今回の分析が決定的な翻訳をもたらすものではないとしつつ、ページが混在しているなら、順序を考え直すことが解読に向けた進展になると話しています。研究者らは、複数ページの上部余白にある大きな水染みの形も、順序を検討する手掛かりとして調べる考えです。
デイヴィス氏によると、水染みは本来、見開きの左右で対称になるはずですが、写本では形が一致しない例があります。研究者らはページ間で染みの形を比較し、葉の並べ替えに役立つかを検討する予定です。











