
国際音楽出版社連盟(ICMP)は、AI企業が豪州政府に著作権ルールの緩和を求めていると批判し、カイリー・ミノーグやニック・ケイヴらの楽曲がAI学習用データセットに含まれていると主張しました。焦点は、AI開発に作品を使う際、権利者の許諾や対価をどう扱うかです。データセットへの収録だけでは、実際にモデルの学習に使われたとは限りません。
楽曲データセットへの収録と学習利用の違い
ICMPのジョン・フェラン事務局長は、GoogleのGeminiが豪州のアーティストの歌詞を出力できることや、YouTube上の1,200万曲超にリンクする「LAION-DISCO-12M」を根拠の一つに挙げました。データセットにはミノーグ、ケイヴ、Hilltop Hoodsらの楽曲が含まれるとされています。
一方、The Atlanticは、楽曲がデータセットに含まれていても、AIモデルの学習時に使われたとは限らないと指摘しています。楽曲の収録情報と、個別のモデルが実際に学習に利用した事実は分けて捉える必要があります。
APRA AMCOSは6月、The Atlanticの調査が豪州・ニュージーランドの作品を含む4つの大規模な楽曲データセットを特定したと発表しました。調査対象には、ミッドナイト・オイル、シア、クラウデッド・ハウス、ロードらの楽曲が含まれると同団体は述べています。同団体のAIと音楽に関する報告書は、強制的なライセンス制度がない場合、両国の作詞家や作曲家の収入が23%減り、4年間で5億豪ドル(約550億円)超の逸失につながると推計しました。
豪州の著作権ルールと許諾をめぐる論点
豪州法には、テキスト・データマイニング(TDM)を包括的に認める個別の例外がありません。豪州法改革委員会(ALRC)は、TDMのために著作物を無許可で複製、デジタル化、形式変換すると、著作権侵害となる可能性があると整理しています。
ALRCは、研究・学習目的のフェアディーリング例外がTDMにも及ぶかは不明確で、データセット全体の複製が必要なら適用されない可能性があると説明しました。また、技術的処理に伴う一時的な複製の例外が適用されるかも明らかでなく、適用は難しいとの見方を示しています。こうした法的な扱いが、権利者ごとの許諾をめぐる議論の背景にあります。
豪州政府は2025年10月、AI開発者向けのTDM例外を設けない方針を示しました。2026年7月、アンソニー・アルバニージー首相は、創作者が管理できない形で豪州の音楽や書籍などをAI学習に使うべきではないと述べ、ICMPはこの立場を歓迎しました。ICMP傘下の豪州音楽出版社団体AMPALのダミアン・リナルディCEOは、同意を前提とした実用的なライセンス制度に向け、政府やAI企業と協議する意向を示しました。
各国のTDM例外と豪州の政策議論
EUでは2019年の指令に基づき、権利者が利用を拒否する意思を示していない場合、商用のテキスト・データマイニングに著作物を使える例外があります。権利者は機械可読な方法で権利を留保でき、留保が示された作品を汎用AIの提供者が学習に使うには許諾が必要です。EUのAI法は、汎用AIの提供者に著作権法を守る方針の整備と、学習に使った内容の十分に詳しい概要の公開を求めています。
豪州法改革委員会は、TDMのため著作物の複製などを行う際、権利者の許諾がなければ侵害となる可能性を指摘しました。EUの商用TDM例外では権利者が権利を留保できますが、科学研究向けの例外は別に設けられ、権利留保の対象外です。米国、日本、シンガポールにはEUより広いTDM利用の余地があると、業界団体BSAは欧州委員会への意見書で述べています。
豪州では、政府が例外を設けない方針を示した後も、AI企業や権利者団体が制度のあり方をめぐって主張を続けています。2026年10月には、豪州議会の人工知能合同特別委員会の委員長と副委員長が、創作者が作品の管理権を保ち、対価を受け取れるよう、現行の著作権制度を検討することを首相に求めました。同委員会は11月30日までに報告書を提出する予定です。
例外制度をめぐる主張と今後の焦点
ICMPは、AI企業が投資を約束する代わりに著作権上の免責を求めていると批判し、権利者への許諾や支払いを伴わない制度に反対しています。一方、Anthropicのジェフ・ブライヒ特使は委員会で、豪州の権利者全員と個別にライセンス契約を結べなければ、現行法上AI事業が違法と判断される可能性があるとの同社の理解を説明しました。OpenAIのアダム・コーエン氏は、米国のフェアユースが新技術の開発を支えていると述べ、同社がNews CorpやThe Guardianと結んだコンテンツ契約を例に挙げました。











