超音波による脳神経の活動の高まりにおけるTRPC6の役割
出典: qst.go.jp

中空構造体で超音波の作用を局所化

超音波は脳の深部まで届く一方、従来の方法では刺激が広がり、小さな神経細胞群を狙う精度に課題がありました。研究チームは、ガスを内包した中空シリカナノ構造体(HSN)を超音波と組み合わせ、マウスの脳を長期間刺激する方法を検討しました。この方法は、パーキンソン病モデルマウスの運動症状を改善したと報告されています。

HSNはシリカの殻とガスのコアを持ち、平均直径は約220ナノメートル、殻の厚さは約10ナノメートルです。研究では表面にポリエチレングリコール(PEG)を結合させ、鉄も殻に取り入れました。

超音波を当てるとHSNから反射信号が得られ、圧力を高めるほど信号が強まりました。一方、中空でないシリカ粒子の信号は弱く、ガスを含む構造が超音波への応答に関係することが示されました。

ガスコアの振動と神経細胞の反応

HSNは超音波の作用を周囲に伝え、機械刺激に反応するイオンチャネルを活性化します。イオンチャネルは細胞膜にある通路で、開くとカルシウムなどのイオンが細胞内外を移動します。

別の培養神経細胞研究では、集束超音波による機械的な刺激が、機械感受性イオンチャネルを通じたカルシウム流入を引き起こしました。流入したカルシウムの信号は、カルシウム依存性・電位依存性のチャネルによって増幅され、神経細胞の発火につながりました。

その研究では、温度上昇やキャビテーション(気泡の振動・崩壊)、大きな組織変形、シナプス伝達は、培養細胞の反応に必要ではありませんでした。HSNを使う研究は、ナノ構造体の量や注入位置を変えることで、超音波刺激の及ぶ脳領域を調整できると報告しています。

マウスで確認された持続性と症状の変化

研究チームはHSNを脳内に投与し、運動野、線条体、腹側被蓋野、視床下核などを超音波で刺激しました。刺激反応はHSNの投与量と位置に関連し、反応が続く期間は数日から数週間に及びました。

HSNはマウスの体内で2カ月を超えて残存しました。研究では、超音波とHSNを組み合わせて視床下核を長期刺激し、黒質緻密部のドーパミン神経細胞を精密に操作した結果、パーキンソン病モデルの運動症状が改善しました。

研究期間を通じて、明らかな全身毒性、細胞損傷、神経炎症は検出されず、培養した神経細胞でも細胞毒性は認められませんでした。ただし、これらはマウスと培養細胞での結果であり、人での治療効果を示すものではありません。

人への応用には残る課題

視床下核を標的とする脳深部刺激療法(DBS)は、脳の深部に電極を埋め込んで刺激する治療法です。視床下核へのDBSはパーキンソン病の治療に使われていますが、長期にわたる電極の埋め込みが必要です。

脳深部への電極埋め込みには、出血や感染のリスクがあります。HSNを使う方法はマウスでの研究段階であり、臨床で用いられているDBSと有効性や安全性を直接比較していません。

超音波刺激をマウスから人へ広げる際には、頭蓋骨や脳の構造の違いが超音波の伝わり方や標的精度に影響する可能性があります。ヒト向けの超音波脳刺激を扱ったレビューは、長期的な影響や最適な刺激条件の解明が課題だとしています。また、動物と人では頭蓋骨、脳の解剖学的構造、神経構造が異なるため、前臨床研究の結果をそのまま当てはめることはできません。