
台湾の研究機関名義で半導体を中国へ輸出した疑い
台湾の検察当局は、テキサス・インスツルメンツ(TI)とアナログ・デバイセズ(ADI)の軍事用途にも使われる半導体を中国へ密輸したとして、企業幹部ら10人を起訴しました。検察側によると、被告らは台湾の国家中山科学研究院などの名義で発注し、部品の仕向け先を偽って輸出した疑いがあります。
捜査当局は、輸出された部品が中国の研究機関に渡り、ミサイルや軍用レーダーの開発に使われたとみています。対象部品は高速動作する軍事・産業用半導体で、レーダー受信機や電子偵察装置、妨害装置、通信機器などに使われるものとされています。
発注時の書面には、米国の制裁対象者へ再輸出しないことや、米国の輸出規制に従うことなどが記されていました。検察側は、これらの誓約や最終使用者の申告が虚偽だったと主張しています。
レーダーでは送受信と信号変換を担う
レーダーのRF(無線周波数)フロントエンドは、アンテナと信号処理部の間で送受信機能を担います。ADIは、電力増幅器、低雑音増幅器、スイッチを組み合わせて送受信経路を構成する製品群を提供しています。
電力増幅器は送信信号を強め、低雑音増幅器は受信した微弱な信号を扱います。スイッチは送受信経路を切り替えます。これらの機能を一つのパッケージに統合した製品もあります。
アナログ半導体は電圧や電流などの連続信号を扱い、現実の信号とデジタル回路をつなぎます。アナログ回路とデジタル回路を同じ半導体に組み合わせた混合信号デバイスは、変換や信号調整を担います。レーダーでは、受信した中間周波数(IF)信号を高速のA/D変換器でデジタル化する用途があります。
原産地を偽装し、利益を得たとされる
検察側によると、部品は米国、タイ、フィリピン、韓国で製造され、台湾では原産国を変える加工はされていません。それにもかかわらず、税関を欺くため「台湾製」と申告されたとされています。
発注には、TIとADIの台湾販売代理店3社の元従業員や取引先が関わっていました。国家中山科学研究院や別の台湾企業の名義で注文され、実際の購入者には香港企業や、中国本土から実質的に支配されていた企業が含まれていたと検察側は説明しています。
検察側によると、主な3グループの利益はそれぞれ9,275万台湾ドル、1億3,583万台湾ドル、1億811万台湾ドルでした。ほかの4人も数十万台湾ドルから641万台湾ドルの利益を得たとされます。検察側は詐欺、文書偽造、マネーロンダリング防止法違反などで起訴し、被告ごとに懲役2〜10年を求めています。
米国と台湾の輸出規制が関わる
米国商務省は対象部品の中国、香港、マカオへの出荷を認めていません。メーカーは出荷前に購入者へ最終使用者の申告を求めています。台湾では、外国貿易法が戦略的高技術商品を許可なく輸出することを規制し、輸出者には最終用途と最終使用者を正確に申告する義務があります。
台湾からの出荷には、台湾側の許可が必要となる場合があります。この許可は米国の輸出規則に基づく許可とは別で、台湾の許可を得ても米国側の許可に代わるものではなく、その逆も同様です。
今回、検察側が挙げた罪名は詐欺や文書偽造などです。米国の輸出規制に違反したこと自体は台湾での罪名になりません。一方、台湾の外国貿易法は、規制対象地域への無許可輸出に刑事罰を定めています。検察側は、軍事部品の流出が台湾の安全保障を損ない、米国から台湾への信頼にも影響しかねないとして、重い刑を求めています。
裁判日程と輸出規制の見直し
裁判は新北地方法院で開かれる見通しです。TIとADIはこの事件についてコメントを出していません。
台湾の経済部は、AI半導体の中国向け輸出管理を強化するため、外国貿易法をさらに改正する方針を示しています。改正を求める側は、中国を規制対象地域に加えるよう主張しており、今回の起訴と並行して輸出管理制度の見直しも進められています。











