
高齢者を対象にした研究で、地中海食に近い食生活を送る人ほど、ミトコンドリアが作る小型タンパク質「Humanin」と「SHMOOSE」の血中濃度が高いことが分かりました。研究チームは、食事と細胞の健康をつなぐ仕組みの候補として注目しています。ただし、この観察結果だけでは、食事が濃度を高めたとは結論づけられません。
食事と2種の小型タンパク質に見られた関連
地中海食は、オリーブ油、魚、豆類、果物、野菜などを重視する食事パターンです。研究では、高齢者の血液サンプルを調べ、食習慣が地中海食にどの程度近いかと、HumaninおよびSHMOOSEの濃度を比較しました。
地中海食への適合度が高い人では、両方のタンパク質の濃度が高く、酸化ストレスの指標は低い傾向でした。酸化ストレスとは、活性酸素種が体の防御機能を上回り、タンパク質やDNAなどに損傷を与える可能性がある状態です。
食品ごとにも関連が異なりました。オリーブ油、魚、豆類の摂取量が多いことはHumaninの高値と、オリーブ油の摂取量が多く精製炭水化物の摂取量が少ないことはSHMOOSEの高値と関連していました。
ミトコンドリア由来タンパク質が担う役割
ミトコンドリアは細胞のエネルギー産生を担う構造体で、代謝や細胞ストレスへの応答にも関わります。ミトコンドリア由来の小型タンパク質は、核DNAではなくミトコンドリアDNAの短い領域にある遺伝情報から作られます。
Humaninは、細胞死を抑える分子として見つかり、その後、細胞をストレスから守る働きが研究されてきました。Humaninと、細胞死に関わるタンパク質Baxとの相互作用も報告され、細胞保護の仕組みの一つとして検討されています。
今回の研究では、Humanin濃度が高い人ほど、活性酸素種の産生に関わる酵素Nox2の活性が低い傾向も見られました。Humaninが酸化ストレスを抑える可能性は、地中海食と心血管の健康をつなぐ仮説の一つです。ただし、観察された関連だけでは因果関係を確定できません。
SHMOOSEと脳の損傷をめぐる研究
SHMOOSEは、Humaninより後に同じ研究チームが特定したミトコンドリア由来の小型タンパク質です。通常型のSHMOOSEは、アルツハイマー病の脳で蓄積することがあるアミロイドによる神経細胞の損傷から、ニューロンを守る可能性が示されています。
一方、SHMOOSEの遺伝的な変異型は、アルツハイマー病のリスク上昇と関連しています。今回観察された食事とSHMOOSE濃度の関連は、栄養と神経細胞の状態を調べる手がかりになります。
心血管疾患を調べた臨床試験との接点
心血管疾患の二次予防を調べたCORDIOPREV試験では、冠動脈疾患のある1,002人を地中海食群と低脂肪食群に分け、7年間追跡しました。主要な心血管イベントは地中海食群で87人、低脂肪食群で111人に起き、発生率はそれぞれ1,000人年あたり28.1件、37.7件でした。
この試験では、複数の調整モデルで地中海食群に有利なハザード比が0.719〜0.753となりました。研究者らは、二次予防で地中海食が低脂肪食より主要イベントを抑えたと結論づけました。対象はすでに冠動脈疾患がある患者で、今回の小型タンパク質研究とは対象も評価項目も異なります。
心血管疾患のない高リスク者を対象としたPREDIMED試験では、地中海食にエクストラバージンオリーブ油を加える群、ミックスナッツを加える群、脂肪を減らす助言を受ける群を比較しました。中央値4.8年の追跡で、主要イベントは順に96人(3.8%)、83人(3.4%)、109人(4.4%)に起きました。
PREDIMEDでは割り付け手順の逸脱が判明したため、以前の報告を撤回し、全員が無作為に割り付けられたという前提だけに依存しない再解析を行いました。再解析では、対照群に比べたハザード比はオリーブ油群で0.69、ナッツ群で0.72でした。
今回の小型タンパク質研究は観察研究で、研究チームは食事がタンパク質濃度を直接変える因果関係を示していません。次の課題は、地中海食への変更でHumaninやSHMOOSEが増えるか、さらにその変化が心血管の健康や脳機能に結びつくかを調べることです。










