
富士フイルムは神奈川工場の小田原拠点に約100億円を投じ、データ保存用磁気テープの生産能力を約5倍にする計画です。生成AIやクラウドサービスの普及で増えるデータの長期保管需要に対応し、LTOテープを安定供給する狙いがあります。
LTO(Linear Tape-Open)は、データ保存に使われるオープン規格の磁気テープです。今回の投資は同社がLTO専用設備に行う過去最大の規模で、最新世代の「FUJIFILM LTO Ultrium 10」を中心に製造設備を拡張し、人員も増やします。
生産能力の約5倍という数値は、2025年度の出荷能力を基準にしたものです。一方、LTOカートリッジの出荷量は2025年に160.3エクサバイトとなり、記録を更新した2024年の176.5エクサバイトから減少しました。LTOプログラムは2026年に過去最高の販売を予測しており、富士フイルムの増産計画はその見通しを踏まえたものです。
AI時代のデータ保管を見据えた投資
生成AIの学習や推論、事業活動のデジタル化によって蓄積されるデータ量が増え、安全かつ効率的に保存・活用する環境の重要性が高まっています。
磁気テープは、カートリッジをネットワークから物理的に切り離して保管できます。富士フイルムは、ランサムウェアなどのサイバー攻撃からデータを守る手段として、テープへの関心が高まっているとしています。
磁気テープは、大手クラウドサービス事業者やデータセンター運営者を中心に利用が広がっています。今回の増産は、こうした需要に応じて供給体制を強化するものです。
LTOテープの記録と保管の仕組み
磁気テープは、薄いフィルム状のベースに磁性体を塗布した記録媒体です。テープが磁気ヘッドを通過するときに磁気の状態を変えてデータを記録し、読み出し時には磁気の変化をたどります。
LTOはテープの長手方向に沿ってデータを記録する方式で、カートリッジ内のテープはドライブによって送り出され、巻き取られます。連続した領域の読み書きに向く一方、目的のデータへ移動するにはテープ上を進める必要があります。
カートリッジをドライブから取り出して保管すれば、保存中に電力を必要とせず、ネットワークからも切り離せます。磁気テープの寿命は目安として約30年とされ、長期保管には保管環境の管理も関係します。
保存コストと取り出し時間の違い
LTOはメディアの容量あたりの費用を抑えやすい一方、利用にはテープドライブが必要です。2026年半ばの価格を基にした比較では、40TBカートリッジは275〜315ドル(約4万3,000〜5万円)、対応ドライブは約13,299ドル(約210万円)とされています。
テープからの読み出しには、カートリッジの装着やデータの読み込みに数分から数時間かかる場合があります。クラウドの低温アーカイブでは、サービスや復元方法によっては一括取り出しに最大48時間かかり、復元料金も発生します。
Solutions North Consultingの試算は、1ペタバイトを10年間保管する条件で、LTO-9の総保有コストを28,821ドル(約460万円)、HDDを使う構成を167,269ドル(約2,600万円)、管理型クラウドを544,324ドル(約8,600万円)としています。この試算ではクラウドからの月間取り出し量を5%とし、HDDは5年ごとに交換する前提です。
最新世代と今後の容量拡大
富士フイルムは2025年に「FUJIFILM LTO Ultrium 10」を発売しました。この世代では、バリウムフェライトとストロンチウムフェライトの技術を組み合わせた独自の磁性体を採用しています。
LTOプログラムのロードマップでは、LTO-11は約70TB、LTO-12は120TB、LTO-13は210TB、LTO-14は365TBのカートリッジ容量が予定されています。
富士フイルムは、磁性体や精密塗布の技術を活用してテープの大容量化を進めてきました。











